413 魔法だけで戦え!
巨大スライムは辺りにある物全てを有機物無機物関係なく飲み込んでいる。
その貪欲な食欲は周りの物全てを取り込み、溶かされたものは巨大スライムの一部になっているのだ。
「何というおぞましい姿じゃ」
「どうやらあの巨大スライムは地面や石すら取り込んでるみたいだねェ。このまま放っておくと数日で国そのものが飲み込まれるねェ。いや、一週間もあれば世界全てがあの巨大スライムになってしまうかもねェ」
「えんとら、冗談を言っておる場合か。下手にそんなことになれば世界が破滅するんじゃぞ」
大魔女エントラ様、アンさんどちらもがあの巨大スライムをこのままにしておいてはいけないと言っている。
「何という事だ、動物達もみんなあの巨大スライムに飲み込まれて命がどんどん失われている」
フロアさんは動物の悲痛な鳴き声を聞いて表情を歪めていた。
巨大スライムは手あたり次第、触れたものを全て同化させている。
もし剣などの武器で攻撃したら、攻撃した剣が取り込まれ、そこから同化されかねない。
触れてはダメなので、魔法等で戦うしかないのだ。
『ユカ、あの怪物は触れたが最後、同化されてしまうぞ』
『ソウイチロウさん、気をつけます。ではどうやって倒せばいいと思いますか?』
『そうだな、ああいったタイプのモンスターは焼き払って再生すらさせないのがセオリーだろうな。切り刻むなら風の魔法が使えればそれが一番良いかもしれないな』
『わかりました、みんなに伝えてみます』
ボクはアンさんの背中からスライムを見下ろし、みんなに伝えた。
「みんな、あのスライムは下手に触れたらそこから同化されてしまうかもしれない。だから一切触れずに魔法だけで戦うんだ」
「しかし魔法だけと言ってもねェ。あのタイプは魔法すら吸収してしまうんじゃないかねェ」
大魔女エントラ様の分析は確実だ。
あの無限に捕食して同化する巨大スライムは、下手すれば魔力すらも食べてしまうかもしれない。
「私に任せてください。あの邪悪なるものを浄化します!」
「エリアさん?」
エリアさんは目の下の巨大スライムに向かい、手を大きく広げた。
「邪悪なる意志に飲み込まれし哀れなる魂よ、さあ、天に還りなさい」
エリアさんが手から放った光は、巨大化し続けるスライムを包み込んだ。
すると、スライムを包み込んだ光は、少しずつ天に昇っていった。
どうやら巨大スライムに飲み込まれて死亡した魂が浄化されているようだ。
「私の力で、全ての魂を天に還しましょう!」
「エリアちゃん、そんなに無茶しちゃダメだってねェ」
「エントラ様、大丈夫です。これは私がするべきことなのです」
エリアさんはそう言ってニッコリと微笑むと、更に手からの光を強く放った。
光に包み込まれた巨大スライムは、周りからどんどん力を失い、そのサイズは半分ほどに縮んでいた。
「みんな、あの巨大スライムは弱っている。今ならアイツをバラバラに切り裂いてその破片を全部焼き尽くせば倒せるかもしれない!」
「ユカ、良くその方法を思いついたねェ。いいねェ、妾があのスライムを切り刻んであげるかねェ」
「あれだけの巨体を空に持ち上げるのには力が必要じゃろう、ワシがその役目をしてやろう!」
アンさんはドラゴンの姿のまま、大きく空に吠えた。
すると、雷雲が呼び寄せられ、紫の雷と突風が吹き荒れた。
「ワシの全力奥義を見るがよい!紫電狂飆!!」
アンさんの呼びよせた紫の突風は小山ほどの大きさもある巨大スライムを上空高く舞い上げた。
「おっと、周りに飛び散らせるわけにはいかないからねェ! バリアフィールド!!」
大魔女エントラ様はボク達と、巨大スライムの両方にバリアフィールドを張り、周りに被害が飛び散らないようにしてくれた。
「さて、ここからは魔法大戦の開始だねェ」
「そうじゃな。遠慮する必要がないってのも良いもんじゃな」
アンさんと大魔女エントラ様は、二人共巨大スライムを前にして楽しそうだった。




