411 暴食の悪魔
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バスラ伯爵の変貌したグリードスライムは、メイドだったものを溶かし、その骨までも同化させた。
「キャハハハハ、大きくなりなさい、そしてその恐怖の感情をアタシちゃんに提供するのよ」
「グブゴガァァァアア!!」
声にならない呻きを上げながらグリードスライムは伯爵の部屋いっぱいに広がった。
そこの部屋には領民から搾取して用意された数多くの高価な芸術品や調度品が飾られていた。
バスラ伯爵は少しでもそれらの芸術品や調度品に指紋や汚れの一つでも使用人がつけたり掃除を怠ると苛烈な仕打ちをしていた。
だが、その芸術品や調度品がバスラ伯爵だったグリードスライムに飲み込まれ、ただの赤黒い吐しゃ物のような臭いを放つ半固体に変化していった。
「キャハハハハ、良い光景。見てると元気が出て来るわ」
グリードスライムは、部屋の壁すら溶かし、その体積をどんどんと大きくしていった。
魔将軍アビスの闇のエキスはバスラ伯爵をグリードスライムに変化させ、そのグリードスライムは有機物無機物、生者死者関係なく全てを飲み込んでいった。
グリードスライムはどんどん巨大化、壁を全て飲み込んだグリードスライムが次は廊下まで侵食していた。
「な、何だこのバケモノは!」
「伯爵様はどこにおられる!?」
「ひいいいー、助けて、助けてぇー!!!」
恐怖の感情が屋敷全体を包むまで、そう時間はかからなかった。
グリードスライムに触れられたが最後、伯爵の部下達や召使、奴隷達はそこからどんどん溶かされてグリードスライムの一部になっていった。
そしてものの一時間もしないうちに、バスラ伯爵の屋敷だったものは超巨大なグリードスライムになっていた。
「魔法隊、前へ!!」
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
バスラ伯爵の私兵が呼び出され、魔法隊がグリードスライムに炎の魔法を放った。
だがそれも焼け石に水に過ぎない。
あまりにも巨大化したグリードスライムは、炎の玉や氷の塊すら飲み込み、魔法隊の兵士達は全員がグリードスライムの一部になってしまった。
「キャハハハハ、何人死んだかしら。リバテアで全く手に入らなかった良質の恐怖が美味しいわ」
魔将軍アビスはグリードスライムに次々と飲み込まれていく命の消える瞬間を恍惚の表情で見ていた。
感情の高ぶったアビスは思わず自身の胸を揉みしだいたくらいだ。
「ハァ……ハァ、最高の気分。やはり恐怖に包み込まれていくクズの命の消える瞬間が一番楽しいのよね。パーッと激しく燃えたかと思ったらシュッと消えるような感じが良いのよ」
興奮した魔将軍アビスは上空で顔を赤らめながら巨大化していくグリードスライムを見続けていた。
屋敷を全て飲み込んだグリードスライムは、移動を開始し、地面や草むらすら飲み込みだした。
その大きさは既に小さな山くらいのサイズになり、グリードスライムは次に小さな村をターゲットに定めた。
グリードスライムには目があるわけではない、生命の数の多い方向に向かって移動しただけだ。
「な、何だあの巨大な黒い塊は!」
「おかーさん、おかーさーん!!」
「ぼうやー!!」
村人の母親は子供をかばおうとうずくまった。
だがグリードスライムはそんな親子を上部から溶かし、親子ともども飲み込んで体の一部にしてしまった。
「おお、神よ……我らは裁かれる時が来たのですか」
神父が最後の瞬間まで神に祈りをささげた。
しかしその祈りが届くことは無く、村一つがグリードスライムに飲み込まれるまでそう時間はかからなかった。
そしてグリードスライムが通り過ぎた後、その村は完全に消滅した。
「キャハハハハハ、また死んだ、また死んだ。コレでようやくアタシちゃんの力が戻ってきたわ!」
グリードスライムに恐怖を作らせた魔将軍アビスは、その悪感情、恐怖、断末魔の叫びを自らのものとし、完全に力を取り戻していた。




