410 凶悪! グリードスライム
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「まさかあそこまで厄介だと思わなかったわ」
「お前、一体何をしに来たんだよォ!」
「それは勿論バグスちゃん助けるためだってば、キャハハハハ」
「誰も助けてくれなんて言ってなかったけどなァ!」
バグスと魔将軍アビスは時渡りの神殿から離れた上空にいた。
「ボクはキミ達とは協力関係にはあるが、決して友好だとか仲間だとは思っていないけどなァ」
「そんなこと言ってるバグスちゃんって可愛いから好き」
「ボクはキミ達が嫌いだけどねェ!」
「あ、バグスちゃんどこ行くの? せっかく今から面白いショーを始めようと思ってたのに」
「キミの悪趣味に付き合うつもりは無いよ、まあせいぜい頑張りなァ」
そう言うとバグスはいきなりどこかに姿を消した。
「せっかくこれから楽しい殺人ショーをしようとしていたのに、まあいいわ。アタシちゃんだけで楽しも。キャハハハハ」
アビスはそう言うとその場から一瞬で移動した。
この移動魔法は高位魔族の持つスキルのようだ。
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「えーい、一体どうなっておるのだ!!」
「それが、バスラ様……ゴミ捨て場の指揮官どころか兵士すら連絡がつきません!!」
「何だと……キサマ、殺されたいのか」
バスラ伯爵は激昂している。
ユカ達のせいで公爵派貴族からのゴミ処理の依頼が激減しただけでなく、肝心のゴミ処理場から一切の連絡が途絶えたためだ。
「まさか……これもあの忌々しい救世主気取りのユカとゴーティ伯爵のガキ共のせいか!」
「荒れてるわね、キャハハハハ」
「こ、これは……アビス様。ようこそお越しくださいました」
バスラ伯爵の洗脳は解けている、だがバスラ伯爵はそれでも心の底から魔将軍アビスに怯え、完全服従を誓っていた。
「そういえば、アナタ、アタシちゃんの一部にしてほしいと以前言ってたわよね?」
「は……はい、アビス様」
「喜びなさい。アナタの望み通りにしてあげるから」
「は、ははっ! ありがとうございます!!」
魔将軍アビスはニヤリと笑うと、指先からどす黒い液体を下にひざまずくバスラ伯爵に向けて垂らした。
「さあ、受け取りなさい。アタシちゃんの闇のエキスよ」
「あ、ああああぁぁあー!」
バスラ伯爵は魔将軍アビスの指にしゃぶりついた。
チュパチュパ……汚らしい音を立ててバスラ伯爵はアビスの指を舐め続けた。
すると……バスラ伯爵の身体に異変が起きた。
伯爵は着ていた服がドロドロと溶けだし、その身体も少しずつ崩れ出した。
「ア……ア゛ア゛アアァァァ!!!」
「欲望のままの姿になりなさい。全てを飲み込み、どこまでも大きく、醜くなりなさい。キャハハハハハ!」
バスラ伯爵だったものは、その姿を完全に失くし、そこには赤黒い腐臭を漂わせる不定形の物体がいた。
「旦那様……? 何ですか、先程の大きな叫び声……ひぃきぃぃぃいいい!!!」
そこに運悪く入ってきたメイドはおぞましいバケモノの姿を見てしまった。
バスラ伯爵の服の残った切れ端が巨大スライムに飲み込まれ、一体化している。
「伯爵様? 伯爵様はどこですか!?」
「オオオオグオォォオオ!」
ドロドロとした赤黒いスライムは部屋に入ってきたメイドの脚に絡みついた。
足が溶かされ、メイドは動けずにその場に転倒し、恐怖にかられたメイドはどうにか手で這いずって逃げようとした。
だが、今度は赤黒いスライムはその手を飲み込み、メイドだったものはその場から動けなくなった。
「キャアアア! 誰か、誰か助けてぇっーー!!」
それがメイドの最後の言葉になってしまった。
バスラ伯爵は魔将軍アビスの闇のエキスによって知性を失い、欲望のままに全てを喰らい尽くす凶悪なモンスター、グリードスライムに姿を変えてしまった。
そしてバスラ伯爵の屋敷は、阿鼻叫喚の地獄絵図にその姿を変貌させた。




