408 創世神の血
エリアさんの話はその後、過去の自身の話になった。
「私は邪神と戦いました。しかしそのあまりの力のぶつかり合いは大地を割り、海を裂き、空を焦がすほどでした。そのあまりの力は双方のことを信仰していた者達すらも巻き込み、この世界は一度滅びかけたのです」
神と神の戦いは、それほどに強烈な物なのか。
「長く激しい戦いの末、私はどうにか邪神を弱体化させました。しかし邪神には彼の信徒がいるので存在を消すことはできませんでした」
それが認識をすれば復活するの意味なのか。
「そこで私は、自らの身体を二つに分け、その半分の身体で邪神を封印したのです。そして、もう半分の残った方の身体、つまりこのエイータの身体でいつか復活した時に再び邪神を封印するために私の信徒達に頼み、神殿で長き時を眠ることにしたのです」
『どうやらその長き時の眠りを目覚めさせたのが私だったようだ』
『ソウイチロウさん、あなたがエリアさんを目覚めさせたのですね』
エリアさんは自らの胸に手を当ててボク達に話を続けた。
「そして私は身体を二つに分け、残った半身を眠らせるために古代の技法を使って作った神殺しの聖剣エクスキサーチで自らの心臓を突かせました。そして仮死状態になった私は、流れ出る神の血を全て聖杯に注ぎ、いずれ復活した時にその血を飲むことで力を取り戻せるようにしようとしたのです」
『そうだったのか! あの聖杯の青い液体は、神の力の注ぎ込まれた血だったのか!!』
『ソウイチロウさん? どういうことですか?』
『ユカ、私が世界一の能力を手に入れたのは忘れられた神殿で青い液体を一口飲んだからなんだ。しかしまさかその液体が神の血だったとは……世界すら手に入れる力と言われた意味がよくわかったよ』
『ひょっとして、ボクの今の凄くみなぎってくるソウイチロウさんの元々持っていた力って……』
『間違いない、創世神エイータの血だ』
そりゃあそんな力があれば救世主とも言われるわけだ。
ボクは改めて自らの手に入れた力の恐ろしさを感じていた。
「しかし私が再びユカ、いやもう一人のユカに目覚めさせてもらった時、私は全ての力と記憶を忘れた抜け殻のようなものだったのです」
『おいおい、抜け殻であの能力だというなら、本来の能力ってどれくらい凄いものなんだよ』
ソウイチロウさんは記憶を失っていた時のエリアさんと一緒に旅をしていたので、彼女のことをよくわかっているようだ。
「しかしそんな抜け殻同然だった私も、ユカと皆さんのおかげで少しずつ力を取り戻す事ができました。私の力は……人々の活力、生きたいと願う気持ち、他者や周りのものへの感謝といった正の感情なのです」
なるほど、それでソウイチロウさんやボクの仲間達が困った人を助け、どんどん人々の気力が満ちてきたので創世神であるエリアさんの力が戻ってきたんだ。
「そして私はあのバグスという男に異空間に引きずり込まれたことで、器である肉体と精神を切り離されそうになりました。ですが、それがむしろ私の本来の記憶を呼び起こすことになったのです」
つまり、あのバグスがソウイチロウさん、エリアさん、大魔女エントラさんを異空間に引きずり込んだことが創世神としての記憶を呼び戻すきっかけになったわけだ。
「私は今から再び目覚めようとする邪神を封印するために動きます。皆さん、どうか私に力を貸していただけますでしょうか」
神であるはずのエリアさんが、ボク達に対して頭を下げた。
それを見ていた全員は、みんなが笑顔で応え、大きく手を掲げた。
「僕は、創世神であるエイータ様のために力を使います!」
「私もですわ。お父様が聞いたらびっくりするでしょうね」
「なんかすごい話になってきたが、面白いじゃねーか、邪神相手に喧嘩ってのも楽しそうだなー!」
「あーしもできることするよぉ。みんなの笑顔がエイータ様のちからになるんでしょ」
「決まりだな、俺も一族の誇りをかけて戦おう!」
元々エリアの正体を察していた大魔女エントラ様とアンさんも笑顔でうなずいていた。




