404 魂同士の会話
ボクとソウイチロウさんは今肉体の無い魂だけの状態で話をしている。
「ユカ様が、気を失ったまま動かないですわ!」
「まあ今はちょっと様子を見ておくんだねェ」
魂の状態でも周りの声や雰囲気は伝わってくる。
ボクの身体は横になったまま動いていないのだ。
「ユカ、済まなかった。私が前世の記憶を取り戻したのは成人の儀式での天啓を受けた時だったんだ」
確かにそういえばそうだ。
ボクの記憶が無くなったのは、成人の天啓を受けてスキルを手に入れた時だった。
「謝らなくていいですよ。もし仮にそのままボクがあのスキルを手に入れていても、ボクは村で何もできずにハズレスキルを抱えて生きるだけでした」
そう、実際あのハズレのはずの床貼りのスキルを使いこなせたのは、ボクではなくソウイチロウさんが前の人生の経験や記憶を持っていたからだと言えるだろう。
「ソウイチロウさん、ボクに貴方のことを教えてください」
ボクの問いかけにソウイチロウさんはゆっくりと答えてくれた。
「わかりました。私は貴方の前世の人間です。私は板上創一郎、かつてゲームクリエイターのチーフリーダーをしていました」
ゲームクリエイター、聞いたことも無いような仕事だ。
しかしそれがあのフワフワ族の集落で、時見の珠で見た世界での仕事なのだろう。
「ゲームクリエイターって……あの箱の中に世界を作る仕事ですか?」
ソウイチロウさんが笑っていた。
「そうですね、パソコンとかコンピューターと言っても多分わからないでしょうから、その認識で良いと思います。しかし貴方はそれをどこで知ったのですか?」
「フワフワ族の集落で、巫女様が時見の珠を使ってボクの過去を見せてもらったんです」
「なるほど、そうでしたか」
話を聞く限り、このソウイチロウさんはとても良い人のようだ。
「あの、それで……ボクの意識の無い間みんなと旅をしたのはソウイチロウさんで間違いないのですか?」
「ああ、最初は大変だったよ。ゴブリン相手にも苦労したしね」
ゴブリン相手に苦労した人がSSクラスの冒険者と一緒に旅をした。
それまでどれだけの苦労があったのだろうか。
「そんな状況でよくそれだけ強くなれたと思います、一体何があったのですか」
「そうだね、私は前の人生でゲームクリエイターとしてマッピング作業やゲームバランスを調整したりシナリオを書いたりしたからね。その経験を生かしてがむしゃらに自身のできることをしただけだよ」
やはりこの人は大人だ。
ボクが同じ状況だったとしても、多分それだけのスキルを使うことはできないだろう。
「……ソウイチロウさん、よくわかりました。やはりこの世界に必要とされるのは貴方だと思います。ボクの身体を使ってこれからも困っている人を助けてください」
確かにボクも強くなれた、でも世界が必要としているのはソウイチロウさんの強さなのだろう。
それでボクが消えるならそれも仕方ないのかもしれない。
「ふざけたことを言うなよ!」
ソウイチロウさんがボクに怒った。
「ユカがいなくなって悲しむ人がどれだけいると思うんだ。確かに私は前の人生の経験を生かしてその身体で冒険をした。でもやはりユカの身体はユカのものだ。お母さんとかはユカがいなくなったら悲しむだろう。私はそんな中でユカのフリをするのは嫌だぞ」
ソウイチロウさんの言うことはもっともだ。
もしボクがいなくなったら、代わりにソウイチロウさんがボクのフリをしなくてはいけなくなる。
「ではどうすれば……」
「もし可能なら私はもう一人のユカとして、同じ体の中でアドバイスさせてくれ」
それは可能なのだろうか。
「でも。もし体の中に一人だけしかいられないとしたら……」
「その時は私が消えるよ。私は本来死んだはずの人間だ、それにこれまで二度目の人生でファンタジー世界の冒険も楽しませてもらった。もう十分満足だ」
ボクは、どうすればいいのだろうか……。




