398 異空間から伝えたいこと
まず考えるべきは、ここがどこでどういう風にすれば元の世界に戻れるかだ。
一つ言えるのは、私は今肉体を持たない魂だけの存在。
幸い、エリアや大魔女エントラと話、意思疎通はできるらしい。
「さあ、まずどうやってここから出るかだねェ。異界の門の番人の一族の妾は、門を開くことはできるけど、開いてもらうことは難しいねェ」
「私のスキルでも、どうすればいいのかわからないです」
エリア、大魔女エントラ、どちらも元の世界に戻る方法は知らないようだ。
ここは私が何かか考えるしかない。
さて、思い出してみよう。
ゲームで肉体と精神が分離した場合のシナリオで、どうやって元の身体に戻るかの場合、
『クロノ・クロニクル』で主人公が消滅したのを仲間が呼び戻す時は、滅びた未来世界での聖なる山で奇跡を起こそうとした。
『ゼノ・デウス』では、主人公の前世、過去世界のシナリオを一通り進めることで、記憶を呼び起こし、それが最強の機体ゼノ・デウス覚醒のキーになっていた。
どちらも、主人公一人だけの力では復活できない、だから仲間に気付いてもらうしかないのだ。
今の状態で仲間に気付いてもらうには、やはり昔からの夢枕に立つという所になるだろうか、昔から死者が何かを伝えるために枕元に立つというのはよく聞く話だ。
今の私は死者ではないが、魂だけの存在、幽霊みたいなものだ。
それなら夢枕に立つ、あるいは誰かの予言として伝えることを考えた方が良さそうだ。
「エントラ様、あの世界で何か予言とか、誰かの夢に入ってものを伝えることは可能ですか?」
「うーん、そうだねェ。まあ出来ないことはないねェ、でも……精神力は相当削られるからねェ、かなりの覚悟が必要と考えた方が良いねェ」
なるほど、出来ないことは無いようだ。
では問題は、誰のどういった夢枕に立つか、または予言として伝えるかだ。
「エントラ様、あの世界で何か異世界とリンクできそうな場所はありますか?」
これは『クロノ・クロニクル』に出てきた未来世界の聖なる山のイメージだ。
私は、異世界とのリンクポイントになりそうなパワースポットを利用して元の世界に戻る場合を考えてみた。
「そうねェ、それなら妾の知る限り、時渡りの神殿が一番可能性高いねェ」
「時渡りの神殿、それは一体何なのでしょうか?」
「時渡りの神殿はねェ、グランド帝国西部に存在する古代文明の神殿だねェ。あそこは望む人を一度だけ過去に戻す事ができると言われてるねェ」
それだ!
その時渡りの神殿で、私がこの異界に飛ばされる前のタイミングに合わせて戻る事ができれば、バグスに異界に飛ばされる前に私はそれを食い止められるかもしれない。
「でもかなり危険な賭けだねェ。もしタイミングをミスったら……今いるソウイチロウや、妾達も消滅する危険性は高いからねェ」
そうなのか、確かにあのバグスとかいう謎の薄闇色のフードの男の力は未知数だ。
奴の力は私達三人を異界に飛ばしたほどだ。
だからこそあの異界への門を開いた瞬間に時渡りの神殿から戻してもらえれば、私達はこの異空間に飛ばされる前に戻ることができる。
「エントラ様、どうにかユカ達を時渡りの神殿に向かわせるように誘導できませんか?」
「そうだねェ。それではここからあの元の世界で時渡りの神殿について知ってそうな人に伝えてもらう方法をやってみようかねェ」
そう言うと大魔女エントラは杖を両手で持ち、意識を集中し始めた。
「さあ、妾の呼びかけに応えてくれるかねェ……!」
そして、大魔女エントラは大きく目を開き、エネルギーを上空高くに放った。
「ハァ……ハァ……どうやら、西の村の長老様に私の念が届いたみたいだねェ。後はユカ達が時渡りの神殿に向かってくれることを願うだけだねェ」
助かった、これでユカ達が気付いてくれれば、私達はどうにかこの異空間から出る事ができそうだ。




