393 邪神テスカトリポカ
どす黒い気体の抜けた呪い師は、その場で力を失い苦しみながら頭を抱えていた。
ボク達は今のうちにまた攻撃されない前に呪い師を倒そうと剣を構えた。
しかし、ボク達の前に巨大な髑髏の邪神が上空から現れ、その口から長い舌が飛び出してきた。
いや、舌に見えたのは赤と黒の毒々しい色の大蛇だった。
大蛇は大きな口を開け、呪い師を頭から丸呑みして再び巨大髑髏の中に納まった。
そして再び上空に舞い上がった巨大髑髏が大きく口を開けた。
「ケカカカカカカカカッ!」
邪神が不気味な笑いをあげている。
「コイツが……邪神!」
「こいつは禍々しい妖気の塊じゃ。皆の者、油断するではないぞ!」
ボク達が上空の巨大髑髏を見ていると、不気味な声が聞こえてきた。
「我に贄を捧げよ。もっと多くの血を満たせ」
「黙れ邪神! 貴様が邪神サマエルか!?」
ホームさんの叫びに邪神が答えた。
「ケカカカカカカッ。そう名乗ったこともあるな。キサマその名前をどこで聞いた?」
「黙れ! お前に話すことは無い! 失せろ、この邪神め!」
「ケカカカカカ、元気なのは良いが、我を見くびらない方が良いぞ」
「何だと!」
そう言うと邪神は巨大髑髏から何匹もの蛇を出した。
眼窩の凹みや、口から大蛇が何匹も姿を見せた。
ボク達はその大蛇を剣で次々と斬り払った。
「ケカカカカカ、やるではないか。強くなくては我の生贄にはふさわしくない。我は強者を噛み砕くことを至福の喜びとするのだ」
邪神はボク達を空から見下ろしていた。
「のう、貴様は人と話す時は相手の目線に合わせろと習った事は無いのか!?」
アンさんが巨大竜巻を巻き起こし、邪神の髑髏を包み込んだ。
古代兵器タルカスの巨体すら上空に舞い上げたアンさんの竜巻を喰らったらひとたまりもないだろう。
だが、邪神は大きく口を開くと、その竜巻を全て呑み込んだ。
「何という不快な風だ。清い風すぎて気分が悪くなるわ!」
「黙れ妖、その頭蓋を叩き割ってやろうか!」
「ケカカカカカ、異国の神よ、我に喧嘩を売らぬ方が良いぞ」
そう言うと邪神の髑髏の目が光った。
この光線はタルカスのものと同じか!?
邪神の目から放たれた光線は辺りを一瞬で焼き切った。
ボク達はそれをとっさの判断で避けた。
みんなが冒険者としてレベルアップしていなければ、アンさん以外全員が一瞬で全滅していたかもしれない。
「これは、タルカスのものと同じ光線」
「ケカカカカカ、あの鉄くずか、我をあんなものと一緒にされては困る。我は『テスカトリポカ』この地に古くより存在する神だ」
どうやら古代兵器タルカスは、この邪神を信仰していた古代の住民達が作った物だったようだ。
「強者よ、我の贄となれ。我は強き者の地肉を食らい、更なる神へと至るのだ!」
「ふざけるな! お前なんかに食われてたまるか!」
「神に喧嘩を売るとは、面白い奴らだ。我の恐ろしさを思い知り、絶望と恐怖の中で噛み砕かれるがいい!」
邪神はそう言うと巨大髑髏の姿から姿を変えた。
巨大髑髏だったものは、縄のようにほどけ、その一部が巨大な翼のある蛇の姿に変わった。
「さあ、生贄となる時間だ。我を楽しませよ」
邪神テスカトリポカ、髑髏の頭の翼を持った大蛇はボク達の前にその巨体を現した。
「みんな! いくよっ!」
「オウッ!」
「了解ですっ!!」
「さて、戦闘開始かのう」
そして……ボク達と邪神テスカトリポカの戦いが始まった。
「食らってやる、頭からバリバリとなァ!」
大蛇がボクに襲いかかった。
ボクがそれを避けると、大蛇は後ろにあった木を一瞬で噛み砕いた。
砕かれた木は毒が回り、一瞬でドロドロに溶けてしまった。
なんという敵だ。
この邪神テスカトリポカは毒を持っている。
正攻法で戦って勝てる相手ではない、ボクはコイツと戦う方法を考えた。