391 原住民と邪神
辺り一面のゴミの山、死体の不法投棄場だったバスラ伯爵の巨大ゴミ捨て場は、ルームさんの魔法で全て焼き払われ、その跡地はボクがマップチェンジスキルで一面の花畑にした。
「綺麗……。これなら亡くなった人達も浮かばれるかもしれませんわ」
「ふむ、本来ならエリア嬢の浄化の力でやってもらいたい所じゃが、今はまだ行方知れずじゃからのう」
「エリアさん、お師匠様……無事なのでしょうか」
ホームさんが心配そうな顔をしている。
「何、あのえんとらのことじゃ。命の危険はなかろうて。単にどこか出られない空間に閉じ込められておるだけじゃろう」
アンさんが言っているエントラさんとは……ひょっとしてあの伝説の流星の魔女エントラ様のことなのだろうか。
もしそうだとすると、このパーティーはどれだけ最強なのだろうか。
「それならなおさら早くお師匠様を助けないと。このままでは大変なことになります」
「わかっておるわかっておる。じゃからワシも一緒に時渡りの神殿に向かっておるのじゃろうて」
辺り一面の花畑を通り、ボク達は時渡りの神殿を目指した。
花の香りがボク達を包んだ。
殺されたり不法投棄された人達がその怒りや悲しみをボク達が晴らすことを願っているのだろう。
この巨大ゴミ捨て場跡を通り抜けたずっと先に時渡りの神殿がある。
「ぬう、何やら嫌な妖気が漂っておるわい。」
時渡りの神殿に向かう途中には原住民の集落が存在した。
集落に一歩足を踏み込んだボク達は、不気味な骸骨を被った男達に取り囲まれていた。
「ダメだ、コイツらまるで話が通じないぞ。動物でも人間でもないようだ」
フロアさんがどうにか原住民と会話をしようとしていたが、原住民の言葉はフロアさんでも聞き取れなかったようだ。
「気をつけよ、こやつらは人ならざる者。妖の気配がぷんぷん漂っておるわ」
アンさんがボク達に注意を呼び掛けた。
「ゲッゲッゲッガー! ゲッガーゴゴ!!」
「ガイリググデ、ガイリググデ、ガッダィダ」
「ガガガンガガガ! ガガガンガガガ」
まるで何を言っているのか意味が分からない。
原住民の言葉は、人間の言葉でも動物の鳴き声でもないようだ。
骸骨を被った原住民は、巨大な斧や石で出来たような蛮刀でボク達を攻撃してきた。
「みんな! 危ないつ!!」
ボクは手に持った剣で原住民の攻撃を食い止めた。
「でゃああー!」
ホームさんが手に持った剣で奴らの武器ごと斬り飛ばした。
しかし、斬られた部分から青緑の体液を流しながら原住民は痛みを感じないかのように立ち向かってくる。
「ファイヤーウォール!」
ルームさんが魔法で炎の大きな壁を作った。
しかし原住民は怖れることも無く、その炎の壁に当たり、そのまま歩いてこようとしている。
体のあちこちがただれ、骨をむき出しにしながらも歩いてくる連中はおぞましい姿だった。
「ユカ坊、アレは人間であることをやめた者たちじゃ。妖の魔素に完全に取り込まれておるわ」
「そ、そんな……くっ! ボクの前の地面を巨大な落とし穴にチェンジ!!」
ボクはあまりのおぞましさに、この原住民をマップチェンジで出来た大穴に落とした。
何体もの原住民が次々に穴に落ちていく。
流石の痛みを感じない原住民もその大穴の壁はよじ登れないようだった。
「豪雨よ、ここに在れ!」
「ガガガッ! ガガガッ! ガガガッ! ガァーッッ!!」
原住民がおぞましい雄たけびを上げながら落とし穴の中で溺死した。
「うむ、人があれだけおぞましいモノになるとは、この辺りには凄まじい邪悪の気配を感じるぞい」
邪悪なる者はその時すでにボク達を睨みつけていた。
邪神の化身である巨大な髑髏から蛇が姿を見せた。
これがこの辺りの原住民に信仰されている邪神だとは、まだ誰も気が付いていなかった。