385 翼持つ悪魔とは
長老様の元を出たボク達は再びホテルに戻った。
「翼持つ悪魔、一体何者なのでしょうか」
「お師匠様がおられたらすぐにでも正体がわかったのでしょうけど」
「ふむ、えんとらなら確かにすぐにわかったじゃろうな」
ボク達が次に目指す場所は時渡りの神殿、そしてその時渡りの神殿には今は誰も近づけない。
その時渡りの神殿の近くには、翼持つ悪魔がいるというのだ。
ボク達は町の人に翼持つ悪魔について聞いてみることにした。
「翼持つ悪魔? いやー、聞いた事無いねー」
「あたし知らないわよ。お婆ちゃんなら何か知ってるかも」
「翼持つ悪魔……名前だけで恐ろしい」
どうやら町の人は翼持つ悪魔についてあまり詳しくないようだ。
このまま時渡りの神殿を目指しても良いんだけど、できるだけ情報が欲しい。
ボク達は教会を訪れることにした。
「よくお越しくださいました、神の使者達の皆様」
「すみません、翼持つ悪魔って何かご存じありませんか?」
「翼持つ悪魔! その話を貴方がたは一体どこで耳にしました!?」
どうやら神父さんは翼持つ悪魔のことを知っているようだ。
「この町の長老様にお聞きしました」
「そうでしたか、それではお伝えするしかありませんね。翼持つ悪魔とは、かつてこの辺りの蛮族に信仰されていた邪神のことです」
「邪神? それはザッハークという名前ではないのですか?」
邪神竜ザッハークはボク達が倒した黒い竜の怪物だった。
もしここで信仰されているのが同じだとしたら、ボク達の倒したザッハークは偽物だったということなのだろうか……。
「いいえ、邪神竜ザッハークは確かにこの国に古くから存在した邪神の一柱です。ですが、この辺りで信仰されていた邪神はザッハークではありません。ロア、イルルヤンカシュ、サマエル……テスカトリポカ。文献も散らばっていてどれが正解なのかがわからないのです」
「ふむ、どうやらへっくすのクソたわけではなさそうじゃな。あやつは馬鹿だが流石に邪神に堕ちるほどまではなっておるまいし」
アンさんの話でたまに出てくるヘックスとは一体何者なのだろうか?
どうやらドラゴンだということは想像はつくが、アンさんがここまで嫌っている理由がボクには分からなかった。
「サマエル、その名前は僕も聞いた事があります。翼持つ蛇、邪悪なる知恵を与えしもの……父上の持つ文献にその名前が出てきました」
「私も存じておりますわ。生贄を求める翼持つ蛇の邪神、その身を葡萄と林檎の木に住まわせ、人を惑わす邪悪なる者、彼の者の名は邪神サマエルなり。私の読んだ魔法書の禁忌の術の項目に書かれていましたわ」
みんなの話を総合してなんとなく見えてきた。
時渡りの神殿の近くに住み着いているのは、生贄を求める古代の邪神で翼をもつ蛇、邪悪な知恵を与える者でその名前がサマエルということだ。
「つまり、時渡りの神殿に行くためには邪神サマエルを倒さないといけないということなんですね」
「そうなります、ですが……サマエルは邪神。A級冒険者でも倒せないような怪物です」
「心配ありませんわ! ここにいるのはユカ様。そして私達全員がこれを持っておりますのよ」
ルームさんは冒険者ギルドで作ってもらったS級ライセンスを神父様に見せた。
「こ……これは、英雄バシラが持っていたという伝説のS級ライセンス! まさか……貴方がたは、救世主ユカ様!?」
神父さんがボク達のことに気が付いたみたいで、深く頭を下げた。
「救世主様、貴方の来るのをお待ちしておりました。神の啓示で貴方がたが来た時に渡す物があったのです」
そういうと神父さんは何か布に包まれた道具を鉄製の金庫から取り出してきた。
「これは、我が教会に古くから伝わるものです、どうか……これをお受け取りください」
そしてボク達は小さな鍵付きの箱を神父様から手渡された。