384 時渡りの神殿の言い伝え
ボク達は町で一番の長生きだという長老様に会わせてもらうことになった。
「待っておりました。二つの魂を持ちし救世主よ」
長老様はいきなりボクのことをそういう風に呼んだ。
「ええっ!?」
「何も言わずともこのジイには分かりますわい。ジイにはよく見えますわい」
しかし長老様はどう見ても目が見えていない様だった。
「不思議に思いますかな? さよう、このジイは生まれつき目が見えませぬ。だがその代わりに与えられたスキルは……過去から未来の全てを見ることができるのですわい。ジイにはよく見えますぞ、救世主様達がどのような人生を歩んでこられたのか」
「ほう、不思議な能力を持っておるようじゃな。ワシの姿も見えるのかのう」
「はい、ハッキリ見えます。貴女は幼子の姿をしておりますが、その実は長年を生きたドラゴンの神様ですな」
長老様はアンさんの正体を一瞬で見抜いた。
「何故じゃ? ワシは完璧に可愛い女子の姿になっておったのに、まだまだワシの変化の術も甘いということなのか……」
「いいえ、そうではございません。このジイは目の代わりにもっと優れたモノを神様から与えてもらったのです。あなた達の魂の色、それで色々と分かるのです」
ホームさんがいきなりその辺りにあった棒を握り、長老様に殴り掛かった。
「おっと、それは何の冗談ですかな?」
だがその棒は長老様には当たらず、宙を切った。
「ご無礼、失礼いたしました。やはり長老様は心眼をお持ちのようですね。下手に何かを言うとすぐに察して避けられると思い、何も言わずに攻撃させてもらいました」
「なるほど、貴方様も心眼を身に付けたということですな、それはさぞかし厳しい修行だったようですね」
長老様はホームさんのスキルのことも一瞬で見抜いたようだった。
「流石です、先程の無礼……誠に申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ。このジイ、貴方様が真っすぐで正しい魂を持っていることはすぐにわかりました。殴ろうとした時も心で謝っていたことも存じております」
「!! 流石です、僕はまだまだ修行が足りませんでした」
「いえいえ、貴方がたは後世に伝えられるような素晴らしい人物になります。それはここにおられる方々全員です」
長老様は本当に過去から未来までの全てを見ることができるのかもしれない。
「時渡りの神殿は、このバスラ伯爵領に確かにございます。ですが今は誰も近寄る事ができません」
ボク達が時渡りの神殿について聞こうとする前に、長老様は時渡りの神殿について語り出した。
「かつてはこの町でも時渡りの神殿の神様のお祭りが行われておりました。ですが、現在のバスラ伯爵になってからその祭りは禁止され、誰も時渡りの神殿に行く事ができなくなりました」
「それは一体なぜ?」
「それには二つ理由がございます。一つは時渡りの神殿への橋が潰されたこと、そしてその橋の近くには凶悪なモンスターが出没するようになったことです」
「ふむ、間違いなく妖の者達の仕業じゃな。それほどまでして何人たりとも時渡りの神殿に行かせたくない理由があるのじゃろうて」
アンさんが長老様の話を聞いて推測していた。
「凶悪なモンスター、それは一体何者なのですか?」
「翼持つ悪魔、邪悪なる者。それは禍々しい風を巻き起こす邪悪なる存在です」
「僕達がその怪物を倒します! ですから場所を教えてください」
「おお……あなた方なら本当に凶悪な怪物を倒せるかもしれません。是非とも、是非ともよろしくお願い致します……」
ボク達は時渡りの神殿の近くに出る怪物のことを調べることにした。
「救い主の魂、二つがお互いを分かち合い、その魂高まりし時、奇跡の力この大地に満ち足りん……」
「それは……?」
「この地に古くから伝わる言い伝えですじゃ。救世主様達に神の御加護があらんことを」
最後にお礼をすると、ボク達は長老様の家を後にした。