383 かつての観光地
ホテルの中庭は、ある程度の広さがあった。
これだけの広さからならここにいる全員分の水くらいは確保できそうだ。
「ボクの目の前の土地をキレイな水の池にチェンジ!」
ボクのマップチェンジスキルで、その場所にきれいな水を湛えた池を作ることができた。
「これは! なんというスキルだ」
「こんなきれいな水……いつ以来だろうね」
「おかあさん、この水飲んでも良いかな?」
「ダメよ、きちんと聞いてからじゃないと」
ボクがマップチェンジスキルで作った池を見て、町の人達全員が驚いていた。
「地面を自在に操るスキル、まさにユカ様は救世主です! 救世主様、どうかこの町をお救い下さい」
「ボクが? 一体どういうことなの?」
ボク達は町の人からこのバスラ伯爵領のことを教えてもらった。
その話によると、かつてのバスラ伯爵領はとてもキレイな観光地で、美しい水や自然、素朴だけど優しい人達が多く、国の中でも有名な場所だった。
だが、本来の伯爵夫妻が行方不明となり、その息子である兄弟の弟が領主代行からそのまま伯爵になってしまってからこの地域は地獄と化してしまったそうだ。
美しかった観光地は公爵派貴族のゴミ捨て場にされてしまい、ゴミ捨て場建設に逆らった者はことごとくが処刑された。
その上、観光資源のおかげで無税だった領地は法律でゴミ捨て場として領地を運営するため、一切の作物の栽培が禁止され、食料は全てが公爵派貴族の領地からの輸入品とされてしまった。
今まで観光資源のおかげで自給自足をして賄えていた人達は、ゴミ捨て場利権のために全ての収入を失ってしまったのだ。
バスラ伯爵はゴミ捨て場利権のためにこの領地の全てを汚し尽くした。
町の人は悔し涙を流しながらボク達に話をしてくれた。
「このやり口、間違いなく裏でヒロが絡んでるねぇ。あのバスラ伯爵程度がこんなこと考えられるわけがないわぁ」
「妖の者もおるようじゃ。この地に着いてから異様な妖気がプンプン漂っておるわい」
マイルさん、アンさんの話を聞く限り、この領地の不幸も裏にはヒロや魔族が糸を引いているようだ。
「僕は以前バスラ伯爵を見たことあります。その時はまだ騎士団見習いでした」
「それってよー、一体どんなヤツだったんだー?」
カイリさんがホームさんに質問している。
「そうですね、弱い相手には当たり散らして強いと思った相手にはヘラヘラと従う最低の男でしたよ」
「最低ですわ。私が最も嫌いなタイプの男ですわ」
どうやらホームさんに聞く限り、バスラ伯爵は話の通じるタイプではなさそうだ。
そうなると、ボク達はバスラ伯爵を倒す必要がある。
「皆さん、ボク達がこの町、領地を助けて見せます!」
「おお、ユカ様。わたしたちをお救い下さい」
「救世主様、何卒お願い申し上げます」
町の人達はボクがこの町を救うというと、安心した表情を見せた。
「さあさあ、皆さん、ご飯の用意ができました」
「うわぁ! 美味しそう!!」
「この土地がまだ観光地だった頃の名物料理です。材料までそのままとはいきませんでしたが、皆さんが用意してくれた食材のおかげで近い物が作れました」
ホテルの料理長が出してくれた食事は、ひき肉を丸めて焼いたものと上に落として焼いた玉子、それに野菜を添えた料理に特製の少し酸っぱいけどおいしいソースがかかったものだった。
「さあ皆様、これを食べてぜひとも頑張ってください」
「いただきます!」
ボク達は観光地の名物料理をご馳走してもらい、その後はゆっくりと休んだ。
その次の日、ボク達はこのバスラ伯爵領の全体図を把握するため、朝からみんなで大きなテーブルの上に地図を広げた。
「さて、どこに向かおうか?」
「ユカ様は何かお探し物ですか?」
「ボク達、時渡りの神殿に行きたいんだけど」
「それでしたら町の長老様にお会い下さいませ」