380 決して笑ってはいけない町
この町では笑うことが禁止されている。
はっきり言って何を目的にしているのかがまるで理解できない。
しかし町の人は、誰もが暗く沈んだ顔をしている。
「一体何があったのですか?」
「アンタら、見かけない顔だね。こんな町にいてもなにも良いことないよ。早くどこかへ行きな」
おばさんが沈んだ顔でボク達にこの町から離れるように忠告してくれた。
「笑ってはいけない町、何かの冗談なのぉ?」
「いや、ジョークではなさそうだぜー。ジョークなら住民の顔がここまで暗いわけがないからなー」
どう考えてもおかしい。
でもなぜこの町では笑うことが禁止されているのだろうか?
「とにかく人に聞いてみよう」
ボク達は町の人にこの街のことについて聞いてみた。
すると恐るべき答えが返ってきた。
「この町で笑ってはいけない法律ができたのは一昨日の話です。自由都市リバテアで大災害があり、多数の死者が出たことを踏まえ、その死を弔うために笑うことが禁止されたのです」
この町の人達は、リバテアの死者を慰めるために笑うことが禁止されたらしい。
だが、リバテアの街はあれだけの大災害だったがボク達のスキルで一切の死者どころかけが人もほとんど出なかった。
それなのにあの街では大多数の死者が出たことになっているのだ。
これは間違いなく住民を押さえつけるために笑うことを弾圧で抑え込もうとしているだけに過ぎない。
「おかしいよ! ボク達はリバテアから来たんだ。あの町では誰一人として死者もけが人も出ていないよ! こんな法律には全く何の意味も無いんだ!」
ボク達の言葉を聞いた住民は動揺していた。
だがそのすぐ後、町の自警団が武装して大挙してきた。
「人心を惑わす虚言を撒き散らす犯罪者はお前らか!!」
武器を持った大量の自警団はボク達を取り囲んだ。
「人を惑わすって何だよ! ボク達はリバテアの街を大災害から守ってここに来たんだ!」
ボクの言葉を聞いた町の人は、動揺の中に少しの安堵を感じているようだった。
「黙れ黙れ黙れ! 関所破りの犯罪者がいると聞いたが、それはお前らか!!」
どうやらボク達が関所を突破したことは、バスラ伯爵の手下に伝わっているようだ。
「そうだ、ボクの名はユカ。お前達みたいな悪党を倒す救世主だ!」
ボクはあえて救世主と呼ばれていることを前面に押し出してみた。
この町の虐げられている人達を少しでも元気づけてあげたいと思ったからだ。
実際、ボクがユカだと周りに伝わると、暗く沈んでいた人達の顔に笑顔が見えた。
「貴様ら! 笑うな! 法律で笑ってはいけないと聞いていないのか!」
「おれたちはもう従わない!」
「私達は笑います。救世主がこの地に訪れたのです。」
「貴様ら、死人を弔う気持ちは無いのか!!」
するとアンさんが小さな少女の体とは思えない凄まじい辺りに轟く声で話し出した。
「聞けぃ! 皆の者よ。ここにおるユカは神の使いなり。邪悪なる者の起こした、『りばてあ』の災害はユカとその仲間達の力で救われ、誰一人として死ぬことも無く、皆が復興に向かって歩んでおるわ! この事実をしかと受け止めるがよい!!」
アンさんの声は辺り一面に響き、家の中にこもっていた人達は全員が表に出てきてボク達を一目見ようとしていた。
「た、隊長。このままでは勝ち目がありません、この場は退却した方が!」
「ええい、忌々しい救世主め! この恨みは必ずはらしてやる!!」
住民を虐げていたバスラ伯爵の手下である自警団は、全員が一目散に逃げだした。
そして自警団の逃げ出した町には、笑顔が戻ってきた。
その後ボク達は、救世主としてこの町の人達に手厚く歓迎された。
人々の笑顔が町に戻り、誰もが喜んでいる。
それを憎々しく感じている存在が一人。
町から遠く離れた場所にいるはずの魔将軍アビスは、いきなりエネルギーが激減したことにより、嘔吐をしていた。