379 関所を突破する!
バスラ伯爵領の関所は、物々しい場所だった。
大きな門はどれだけ巨大な馬車や牛車、下手をすれば小型のドラゴンですら通れるくらいのサイズだった。
その前には大勢の兵士達が立っている。
ボク達は正面から関所に向かって歩いた。
「待て、ここは決して誰も通してはならぬ場所! すぐに帰れ! 」
「僕は『ホーム・フォッシーナ・レジデンス』です。僕はゴーティ伯爵の出した許可証を持っています。ここにいる全員分がここにあります。これは帝国内ではどこにも行ける許可証、ぜひとも確認してください」
ホームさんがゴーティ伯爵様の発行した通行許可証を兵士に手渡した。
通行許可証を一瞥した兵士は、その場で許可証の紙をおもむろに破り出した。
「な、何をするだぁー!?」
ホームさんがあまりの出来事にろれつが回っていなかった。
「このようなモノ、このバスラ伯爵領では何の意味も無い。すぐに立ち去れ! さもなくば牢屋にぶち込むぞ!」
バスラ伯爵領の兵士達は、偉そうな態度だった。
公爵派貴族の兵士は全員このような態度なのだろうか。
「気に入らないねぇ! そんなにアンタら偉いのかい?」
「オレたちはバスラ伯爵様の兵士、バスラ伯爵様こそがこの場所では一番偉いのだ!」
何とも意味の無い歪んだ自信で兵士達は威張り腐っている。
「何だその目は、生意気な奴らめ!!」
兵士がいきなり槍を突き付けてきた。
それも手加減も寸止めも無しだ。
確実にボク達を殺そうとしていた。
だが、この程度のレベルの兵士、今のボクでも足手まといにならずに倒せるくらいだ。
ボクは手に持っていた剣を振るった。
無駄に頑丈な鋼鉄の鎧を着た兵士が数人一気に吹っ飛んだ。
「な、何だコイツらは!!」
「強すぎる!! コイツら……まさか」
兵士達が何かの紙を持ってきた。
どうやら犯罪者の似顔絵一覧のようだ。
だがそこに描かれていたのは、ボク達の顔だった。
「ま、間違いない! コイツら……救世主ユカとその一味だ!!!」
「マジかよ!! 勝てるわけがねぇっ……逃げろー!!」
鎧を着た兵士達が全員一目散に逃げだした。
「キサマラ! 敵前逃亡は死刑だぞ!!」
「しらねえよ! あんな奴らにケンカを売ったらこっちが殺される!!!」
そして関所には指揮官らしき男が一人だけ残った。
「キ……キサマら!! オレに手を出してみろ、伯爵領との戦争になるぞ!!」
指揮官はそう言いながら半狂乱で剣をやたら滅多に振り回してきた。
だがその腕はハッキリ言って下も下だった。
空振りの剣が手からすっぽ抜けた指揮官はその場に尻もちをついてしまった。
ボクは剣を突き付け、少し脅してみた
「ここを通してもらう!」
「は、はひ、どどど、どうぞお通り下さい」
指揮官は恐怖のあまり、その場に小便を漏らしてしまった。
ボク達はそんな奴は無視してそのまま関所を通った。
関所を抜けたすぐから、辺りに嫌な臭いが漂っていた。
「うげっ! なんなのよぉ! この臭いは」
「臭い、臭くてたまりませんわ」
「これは、ヘクタール領の死体置き場と同じ臭いだ……」
全員が嫌な臭いに鼻をつまんだり気分が悪くなっているようだった。
「仕方ないのう、風よ吹け」
「あ、ありがとうございます」
アンさんのおかげでボク達は周りの空気を清風に変えてもらい、どうにかそのまま歩き続ける事ができた。
そしてしばらく歩くと、そこは小さな町だった。
町の中では男の人と女の人が鞭で打たれていた。
「キサマ、笑ったな! 笑うことは禁止だといったはずだ!!」
「そんなぁあ!! 助けてください!!」
「そこの立て札に、笑うことは禁止だと書かれていたはずだ!!! それを破るとはバスラ伯爵への反逆とみなす!!」
どうやらこの町も公爵派のせいで弱い人達が虐げられているようだ。