375 希望を灯す灯台
灯台は赤々と炎が燃え上がり、その炎は決して消えない炎となった。
「ふむ、これはミクニの至宝、決して尽きぬ炎じゃ。たとえ数百年後数千年後この街が滅びてもあの灯台の炎は燃え続けるじゃろうて」
アンさんが聖なる器と尽きぬ炎のことを説明している。
だが、この言い方はどんなものだろうか。今から復興に向かおうとしているところで、滅びてもって言い方はちょっと考えて欲しい。
「そんなに……それは凄いですわ!」
「まあこれは魔法の炎じゃからな。周りから魔力を集め、自ら燃えるようになっておるのじゃ。そして聖なる器がその炎が動かないように守っておる。この炎は何者とてそう簡単に消せぬわ」
赤々と燃える炎は、この先いつまでもこの街と海を見守り続けていくのだろう。
リバテアの人達が、灯台の下で全員歓声を上げていた。
辺りは薄暗くなっている。
それでもこの灯台の炎は燃え上がり、海を照らしている。
「ユカ様、皆様……本当に、本当にありがとうございます。このご恩は決して忘れません」
バレーナ男爵がボク達に何度も何度も頭を下げていた。
「ふむ、そう言われてはのう。ワシがさーびすをしてやろうではないか」
アンさんは少女の姿で灯台から上空に舞い上がると、空中に浮いたまま灯台に向かって紫の光を放ってきた。
「!!?」
誰もがビックリしていた。
だがその光は何もボク達に影響を与えなかった。
一体アンさんは何をしたのだろうか?
アンさんは再びボク達のいる灯台の最上階に舞い降りてきた。
「アンさん? 一体何をしたのですか?」
「この灯台にワシの不変の魔力、龍神の加護を与えたのじゃ。炎、氷、雷、地震、風、この灯台に不変のありとあらゆる災害を無効にする力を付与してやったのじゃ」
アンさんは凄い能力の持ち主だ。
流石はドラゴンの神様と呼ばれるだけのことはある。
「ドラゴンの神様、重ね重ねお礼を申し上げます。せめて、この灯台の名前にそのお名前を付けさせていただいてよろしいでしょうか?」
「ふむ、好きにするがよい」
「ありがとうございます。この灯台はドラゴンの灯台としていつまでも語り継いでゆきます」
「ドラ……? ま、まあいいじゃろ。好きにせい」
そしてリバテアの象徴になる大灯台は、ドラゴンの灯台と呼ばれるようになった。
「ふむ、しかしこの鏡を持ってきたが必要なかったようじゃな。ミクニの者が来たら返しておくかのう」
アンさんが大きな鏡を見てため息をついていた。
「すみません、この鏡、お借りしてもよろしいでしょうか?」
工事現場の主任さんがアンさんに鏡を借りたいと伝えた。
「構わぬが、どうやって使うつもりじゃ? 炎の中に鏡を入れるわけにもいくまいに」
「違います、オレ達に任せてください」
「まあ、やってみるがよい」
工事の主任さん達はその後三日程かけて、工事を完成させた。
◇
「ユカ様、ドラゴン様。完成しました。ご覧ください」
「ほう、これは面白いことを考えたものじゃな」
工事の担当者達は、レールの上に台車で鏡を固定し、自動的なシステムで円形に回るように作り上げた。
「これは鏡の力で灯の光を遠くに光らせるためのシステムです。これでどんな嵐の夜でもこの灯台は常に灯りを灯し続けるのです」
「これは傑作じゃ。まさかあの鏡をこう使うとはのう」
リバテアの灯台はこれで完成した。
この灯台は復興のシンボルとして、希望を灯す灯台としていつまでも火を灯し続けるのだろう。
ボク達は灯台の最上階から復興の工事の様子を眺めていた。
これでボク達がリバテアでやるべきことは終わった。
思った以上に時間がかかってしまった分、急いでバスラ伯爵領に向かわないと。
次の目的地は時渡りの神殿。
ボク達はバスラ伯爵領にある時渡りの神殿を目指すため、旅の準備を開始した。