374 尽きぬ種火と聖なる器
灯台は完成した。
だが、肝心の火種をどうするかが問題だ。
「毎日誰かに灯台に上って火を灯してもらうのはどうだろうか?」
「まあそれでも人件費とかは問題ないだろうけど、それよりももし消えてしまっていた場合点けに来ることを考えると得策ではないですね」
灯台の明かりが消えていたら何の役にも立たない。
そういう意味ではこの火種をどうやって用意するか、
みんなが頭を悩ませていた。
「何じゃ何じゃ、せっかく灯台ができて皆喜んでおったのに、なぜそんなに考えこんでおるのじゃ?」
アンさんは全員が火種の件で頭を悩ませているのを他人事のように見ていた。
「アンさんには何かいい方法あるんですか?」
「ふむ、よかろう。ユカ坊、ミクニに行くぞい」
アンさんがいきなりとんでもない事を言いだした。
これからミクニに行くなんて、数か月はかかることではないのか?
それに灯台が動かないと船を動かせない本末転倒だ。
「ええぇ? い、今からですか?」
「そうじゃ。今から向かうぞ」
そう言うとアンさんはボク達を連れてドラゴンの姿でホテルに降り立った。
そしてボク達の借りている部屋に入ると、そこには光るワープ床があった。
「それを使えば一瞬じゃろう」
「これは……確かにこれなら一瞬で別の所に行けます」
ボクが自分のスキルのことを忘れていたのに、アンさんはしっかりと覚えていた。
だけどミクニにもワープ先を用意していたなんて、『バンジョウソウイチロウ』さんはかなり用意周到な人だったみたいだ。
「では行くぞい」
「は、はい!」
ボク達はワープ床から冒険者ギルドに、そこからまだボクの行った覚えのないワープ床に踏み込んだ。
すると、ワープ床はボクの見たことも無い場所の倉庫に通じていた。
「何者だ!? え、ユカ様! 皆の者、ユカ様がお越しになられたぞ!」
ボク達はミクニの国の城で、三人の人物に謁見することになった。
「これはユカ様、龍神イオリ様、よくお越し下さいました」
「うむ、実はそなたらに頼みたい事があってのう」
「この国の救世主であるイオリ様ユカ様達のためなら喜んで協力致します!」
ボク達はこの国の国王様に深々と頭を下げられた。
「ふむ、そなた等に頼むのは、尽きぬ種火と聖なる器と銀光鏡じゃ」
「あれは、この国の至宝。それを必要とするとは……イオリ様、何かとても重要な話のように感じますぞ」
「そうじゃな、話せば長くなるが……」
アンさんはミクニの国王様達に震災の件を伝えた。
「それは、一大事! 我らミクニの国からも支援団を派遣させていただきますぞ! 海上武士団結集だ!」
「小生の空龍武士団も参りましょう」
「兄上、僕は……」
「リョウド、吾輩達の出ている間、国を守るのはお前の使命だ。この国を頼むぞ!」
「はい、兄上。承知致しました!」
ボク達はミクニの王様達に宝物殿に連れて行ってもらった。
「イオリ様、こちらが尽きぬ種火。それと聖なる器と銀光鏡にございます」
「ふむ、ご苦労じゃったの。それではこれは使わせてもらうぞ」
「はい、亡き父上も国の至宝が民のために使われるなら喜んで使わせてくれましょうぞ」
ボク達はガラスの中に入った火を松明に移し、聖なる器と大きな鏡を持ってまたワープ床からリバテアに戻った。
「皆のもの、待たせたのう。これがあればもう種火のことは気にせずとも良いぞ」
アンさんとボク達はミクニから持ってきた尽きぬ種火と聖なる器、銀光鏡を持って灯台の最上階に向かった。
「それでは、ここにこの火を置きます」
「ふむ、尽きぬ種火を聖なる器にくべると、その火はいつまでも燃え続ける。ミクニではこれを使って鍛冶に使っておったわい」
聖なる器に移された火は、赤々と激しく燃え上がり、その明るさは遠くにまで見えるものになっていた。