367 大火災をも飲み込む暴風雨
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「ダメだ! 魔法を使ったら犠牲者が出る!!」
僕達の目の前には巨大な火災旋風の竜巻が出来上がっている。
このままでは大災害の犠牲者が大量に出てしまう。
だからとルームの氷魔法は強力すぎて常人が耐えれない猛吹雪になる。
どちらにしてもこのままでは多数の犠牲者が出てしまう。
僕は厳しい選択をするしかなかった。
火災旋風の犠牲者を無くすためにルームの魔法を使わせるか。
あまりにも強い魔法での犠牲者を避けるために、火災旋風から逃げることを選ぶか。
だが火災旋風から逃げようとして、巻き込まれたら全員死亡という最悪の場合も考えられる。
「くっ!!」
そんな厳しい選択を迫られた僕達の上空に少女の姿のイオリ様が現れた。
「厳しい選択じゃの。だがそれでも人を助けようとしたおぬしの気概、ワシが見届けたぞ」
「イオリ様、どうしてここに?」
「まあ見ておれ。ミクニでも昔大火災が発生した事があってのう。ミクニの家はほとんどが木と紙で出来ておったので火災があっという間に広まってしまったのじゃ。それに比べればこの街は煉瓦と漆喰でできておるようじゃからまだマシじゃ」
「イオリ様、一体何をしようと?」
イオリ様は高く右手を空に掲げた。
「激しき雷雲よ! ここに在れ」
イオリ様が手を掲げると、今まで雲一つなかった空が真っ黒な雨雲に覆われた。
「降り注げ、全ての火を消し尽くすのじゃ!!」
イオリ様の呼んだ巨大な雷雲は激しい暴風雨となって大火災に降り注いだ。
「これは……奇跡だ」
「喜ぶのはまだ早いわ、ワシがあの火災旋風を消し去ってくれよう!!」
イオリ様が大きく手を振りかぶると、荒れ狂っていた火災旋風がイオリ様を包み込んだ。
「イオリ様!」
「ふはははは、心配するでない。地上の者どもに犠牲が出ぬよう……ワシが火災旋風をおびき寄せたまでのことじゃ」
イオリ様は火災旋風に全く何のダメージも受けていなかった。
「凄いですわ……私もできることを致しますわ。レジストファイヤー!!」
ルームが大きく杖を掲げると、その魔力はこの辺りにいる人達全員に薄い光の膜になった。
「さあ皆様、私が炎属性無効の魔法をかけましたわ、今のうちに全員高台に避難してくださいませ」
「あ……ありがとうございます! みんな、高台に逃げるぞ」
自警団の人達が住民を引き連れて高台目指して走った。
「イオリ様!」
「むううううううぅぅうん!! はぁあああっ!!」
イオリ様は大きく口を開くと、火災旋風をその身体に次々と飲み込んでいった。
巨大な火災旋風はイオリ様に飲み込まれ、数分もしないうちに全てがその口の中に吸い込まれしまった。
「ふう、あまり美味い炎ではなかったのう。かなりの悪意を感じたわい」
「イオリ様、無事ですか!?」
「ホーム坊、ワシはなんともないわい。ワシの心配よりも逃げ遅れた者がおるかどうか見てくるのじゃ」
「はいっ! わかりました」
僕は暴風雨の中を走った。
イオリ様の呼んだ雷雲は激しい雨風となり、あれだけ大きかった大火災はあちこちでボヤ騒ぎ程度に落ち着いていた。
「あれくらいの火災なら私の風魔法で吹き飛ばせますわ! エアリアルバースト!」
ルームはくすぶっている炎を次々と消し去り、僕達は逃げ遅れた人達全員を助け出す事ができた。
暴風雨が止んだ時には、もう街に燃えている場所はどこも存在しなかった。
「ルーム、こっちはもう大丈夫だ。僕達も高台に戻ろう!」
「了解ですわ」
「ふむ、この街の者達に誰も犠牲者が出ずによかったのう」
街は大水害に見舞われたかのような水浸しになっていたが、それでの犠牲者は誰もいなかった。
あれだけの大火災だったが、龍神イオリ様の力はそれを吹き飛ばすほどの暴風雨を巻き起こし、全ての炎を飲み込んだのだった。