362 統治者不在の街
リバテアの大騒乱は一晩で終わりを告げた。
朝になり、新しく就任したはずのタックス伯爵は三日でその地位を失った。
帝国騎士団によってタックス伯爵の屋敷、庁舎、そして隠し財産の全てが押収され、タックス伯爵は昔からこのリバテアで姿を隠して麻薬密売や奴隷の売買をしていたことが発覚した。
どうやらヒロがタックス伯爵をすんなりとこのリバテアの新統治者に据えることが出来たのは、それらのブラックマーケットの金があったからだと言えよう。
だがそのタックス伯爵は昨夜から姿が見えない。
ヒロも姿を隠してしまったようだが、残念ながら悪徳貴族とポディション商会の密接なつながりを示す証拠はどこにも見当たらなかった。
「ヒロのヤツ……逃げたようだねぇ。逃げ足の速いヤツだよぉ」
「マイルさん、カイリさん、お身体の方は無事ですか?」
「うん、そっちは特に問題ないよ」
「俺を拷問したつもりだったんだろうが、あの程度の攻撃痛くもかゆくもなかったぜー」
どうやら二人共無事だったようだ。
「ユカ様、ご協力ありがとうございます。俺達は以前から公爵派のタックス伯爵を怪しいと睨んでいたのですが、いざという時には証拠が見つからないようにされていたのです。ですが、新統治者に就任した直後だったので、引っ越し荷物の中に大量の証拠書類がある状態だったため、それらを隠す前に全て押収する事ができました」
シュタインブルッフ部隊長がボクに頭を下げてきた。
そうか、ボクの身体を使っていた『バンジョウソウイチロウ』さんは、こういう風に戦うだけでなく困った人をマップチェンジのスキルで助けていたんだ。
「そんなことないですよ、皆さんが頑張ってくれたおかげです」
「隊長! タックス伯爵が徴税していた油税を見つけました。コレはどうしますか?」
「そうだな、本来必要ない税でしかも本国の許可無しの私税だ。全額計算した上で住民に返還してやれ」
「了解です! ですが、そのためには統治者のサインが必要になります」
「大変だ! タックス伯爵が庁舎の中で死んでるぞ!!」
なんと、諸悪の根源であるタックス伯爵は庁舎の中で亡くなっていた。
「一体これはどういうことだ?」
「わかりません、逮捕されそうになったタックス伯爵が命乞いに公爵派貴族の全てを暴露すると言ったとたん、苦しだして事切れてしまいました」
もしかしてタックス伯爵は口封じにどこかの暗殺者に殺されたのかもしれない。
◇
ボク達は集まって朝食を取りながら、隊長さんや村長さん達とリバテアの今後を話し合った。
「困ったものだな、統治者がいないとなるとこのリバテアでの全ての行動に制約がかかる……」
「シュタインブルッフ部隊長、貴方が統治者代行というのはどうでしょうか?」
「ホーム殿、確か今の貴方はフランベルジュ領領主代行でしたな。むしろこのリバテアもホーム殿が統治してはいかがかと?」
そういえばホームさんは貴族だったので、その線で行けば問題解決ではないのかな。
「そういうわけにはいきません、領主は国の許可なく正当な理由なく領地を他領から手に入れるわけにはいきません。むしろシュタインブルッフ隊長が領主代行を務められては?」
「いや、俺は階級的には準男爵。領主、統治者になれるのは男爵以上の爵位ですので俺は無理です」
この国では男爵と準男爵には大きな壁が存在する。
男爵になる人物は生まれついての村長以上の立場でなければなれないのだ。
「困りましたね、でもこのままこの街を空白にしておくとまた公爵派貴族をねじ込んでくるのは明白です。村長、町長以上の立場の人物がここにいれば……」
「村長以上ならいいんだろ、それなら旧バレーナ村の村長さんはどうだ?」
フロアさんがアドバイスをしてくれた。
「それだ!」
「え? ワシがこんな大都市の統治者になるのですか??」
いきなりの話に旧バレーナ村の村長さんがビックリしていた。