361 そして夜明けが来る
リバテアの自警団はお世辞にもレベルが高いとは言えなかった。
あの程度なら今のボクでも何人かかってこようが十分倒せるレベルだ。
「ひいいー、コイツら強いぞ」
「バ、バカ。逃げたらお前も懲罰ものだぞ」
統制を失った自警団は海賊、正規兵の帝国騎士団、武装商隊、どれもまともに相手できなかった。
「ひえええー、逃げろー」
「バ、バカ! オレを置いていくなー」
この自警団はリバテアの正規兵ではない。正規兵は新統治者の就任と同時に全員解雇されてしまったのだ。
街で不当に解雇され仕事にあぶれた元正規兵が、ユカ達が新統治者に反抗していると聞いて全員集まってきた。
彼らは自警団の投げ捨てた武器を拾い、一人、また一人と集まり……帝国騎士団や武装商隊、海賊や旧バレーナ村の人達に次々と加勢していった。
「か……勝てるわけがない、相手はあの救世主ユカだぞ。噂では魔将軍を倒したとか」
「魔将軍!? あの伝説の悪魔を???」
「海の赤い魔獣を倒したとも聞くぞ……」
「勝てるわけがない、逃げろー!」
どうやらボクの噂はあちこちで尾ひれがついて凄いことになっているようだ。
リバテアの町は、上から下まで静かな早朝とは思えないほど大混乱の中にあった。
戒厳令とこの混乱で、普段なら賑わう市場は早朝から完全にストップしている。
外の様子が騒がしいことに気が付いたヒロは、急いでマイルを処刑しようと彼女達を連れ出して処刑場に向かおうとした。
だが、処刑場への道は大量の人達によって塞がれていた。
「いつになったらマイル達を処刑できるのよ?」
「ヒロ様、それが……処刑場の前に大量の住人がいて中に入れないんです」
「はぁ? そんなクズ共さっさと追い払いなさいよ!」
「それが……困ったことに、軍が到着してしまいまして」
帝国騎士団はリバテアに朝到着したように装い、住民の暴動を抑える名目で庁舎付近をせき止めていた。
「いいか、帝国騎士団は一般住民に一切の手出しを禁ずる。あくまでも平和に街の騒乱を鎮めろ」
「隊長! 了解です!!」
帝国騎士団は処刑場への道を防ぐ一般住民をさえるフリをしながら別動隊でタックス伯爵の屋敷と庁舎を包囲した。
マイル達を処刑できないまま、ヒロは別の場所に移動することになった。
「まあいいわ、処刑場が使えないなら別の場所に連れ出して……そこで殺してやるわよ」
ヒロは部下に命令してマイルとカイリを牢屋から連れ出した。
「アンタ達には海の藻屑になってもらうわよ。海に消えたとなったら証拠も何もないからね」
だが海へ向かう道は旧バレーナ村の人達とカイリの手下の海賊が塞いで入れなかった。
「ここから先にはいかせませんぞ。マイル様達は儂らの恩人じゃ」
「くそっ! あの時の奴隷共、なんでお前達のようなクズが邪魔するのよ!!」
流石のヒロも軍がいる場所では、自警団に住民への弾圧を指示できなかった。
「こうなったら……郊外に連れ出して、そこでモンスターのエサにしてやる」
だが郊外に行く出口には武装した商隊が、ヒロ達の前に立ち塞がった。
「マイル様達をお前の好きにはさせない」
ヒロは完全に計画を挫かれた形になり、半狂乱になった。
「なんで、どうしてよ! なぜいつもいつもいつもあのユカとその仲間がアタシの邪魔をするの!?」
「ヒロ様……大変です! 帝国騎士団が、タックス伯爵様の屋敷に踏み込みました!」
「な、何ですって!?」
ヒロの顔が青ざめていた、ヒロはマイル達を放り出して一人でどこかに姿を隠してしまった。
指揮系統を失った自警団は住民への暴行、弾圧の名目で騎士団によって一人残らず逮捕され、そして……大混乱の夜が明けた。