359 夜明けまであとわずか
紫のドラゴンの姿のアンさんの背中に乗せてもらったボク達は、リバテアに向かって飛んでいた。
「急ぐぞい。もうすぐ夜明けじゃ。東の空が白んできておるわい」
アンさんがスピードを上げた。ボク達は振り落とされないようにしっかりとアンさんのたてがみや角を掴んた。
そしてアンさんはあっという間に自由都市リバテアの上空に到着した。
「さて、では宿屋の庭に降りるとするぞい」
ボク達がホテルの中庭に着陸すると、アンさんはドラゴンの姿から可愛らしい少女の姿に変化した。
「みんな、もう到着していたのですね」
「俺達をどう分けるか、ユカさん、頼むぞ」
フロアさんがボクにチーム分けするように頼んできた。
『バンジョウソウイチロウ』さんならこんな時すぐにでも指示が出来るのだろう、でもボクは人を仕切った経験がない。
とにかく考えよう、今いる人達は、ホームさん、ルームさん、フロアさんにアンさん、それとオンスさんを中心にしたマイルさんの知り合いの商隊の人達と、シュタインブルッフさんを中心にした帝国騎士団の人達。
これだけの人数がいれば留置所を取り囲むのは容易にできる。
でもそれだけだと周りの住民の人達に迷惑が掛かってしまう。
「ボク思うんだけど、これだけの人数で街の中を大量に動いたら住民の人達に迷惑かかるんじゃないかな?」
「そうですわね、確かにユカ様の言う通りですわ」
「そう考えると、住民の人達を味方につける必要がありそうですね」
「ふむ、確かに人心を掴まずにことを起こせば悪者になるのはこちらじゃな」
「確かこの街で以前俺達が助けた元バレーナ村の住民っていなかったか?」
フロアさんのアドバイスでホームさんが閃いたようだ。
「そうです! 僕達が以前このリバテアで奴隷商人から助けた旧バレーナ村の人達、あの人達が僕達に味方してくれれば住民はどちらが正しいか判断してくれます!」
「そうなると、その人達を守れるだけの人が欲しいですわね、帝国騎士団の皆様に頼るわけにはいきませんし……」
「その役目ならおれたちに任せてくれよ!」
ボク達の話をしているところに入ってきたのは、海賊といった風貌の人達だった。
彼らはカイリさんの部下らしい。
「船長が捕まったと聞いておれたちもどうにか取り返す方法無いかって考えてたんだ。でも下手におれたちが動けばおれたちがおたずねものになってしまうから、どうにかできないかと考えてたんだよ」
「バレーナ村の住民ならオレたちが守ってやるから安心してくれよ!」
海賊の人達もボク達に協力してくれると言ってくれた。
これで作戦は立てやすくなったはずだ。
「ユカ様、俺達帝国騎士団は、ゴーティ団長から預かったタックス伯爵の不正の証拠を突き付けて留置所とタックスの屋敷を包囲します。住民のことは皆様に任せます」
「部隊長、協力ありがとうございます! 僕達は街の入り口のほうに商隊のみなさんと一緒に向かいます」
「それなら俺は竜の神様やカイリの手下達と一緒に港の方に行くぞ」
「それではボクはどうすれば?」
フロアさんがボクに答えてくれた。
「ユカさんは俺達と一緒に来てくれ。奴隷から解放してくれたユカ様がいれば住民は間違いなくユカさんのことを擁護してくれる」
確かに、ボクが奴隷だった人達を助けたということならその人達が恩返ししてくれてもおかしくはない。
「わかりました、ボクも港の方に向かいます」
「決まりじゃな」
「みんな、それでは作戦開始です!」
ボク達は三方向にそれぞれ分かれてマイルさん救出作戦と、タックス伯爵の不正を暴く計画を実行することになった。
夜はすっかり明け、朝日が水平線の向こうからまぶしく照らしてきた。
もう時間は無い、急がなくては。
マイルさん達の処刑の時刻が刻々と迫っていた。