358 リバテアへ急げ!
勇猛果敢の帝国騎士団は、突然のドラゴンの飛来に誰一人として怯える者はいなかった。
「各員、密集体型を取れ! 魔法隊は援護を開始」
帝国騎士団の部隊長は焦ることなく、ドラゴンとの戦闘準備を進めた。
「待って! 待って下さい、シュタインブルッフ部隊長!!」
「俺の名前を知っている? 総員攻撃やめー!!」
アンさんの背中から降りたホームさんは帝国騎士団の部隊長に挨拶をした。
「お久しぶりです。シュタインブルッフ部隊長」
「お前は……ホームか。久しぶりだな」
どうやらホームさんと帝国騎士団の部隊長は知り合いだったようだ。
「帝国士官学校の少年科に居たと思ったが、長期休暇の間に実家に戻っていたのではなかったのか? 休学届は一応父上から預かってはいるが」
「話すと長くなります、今は一刻も早く自由都市リバテアに!」
「それはわかっている。俺もその連絡をゴーティ元団長から聞いてリバテアに向かっているが、後数日はかかる」
「それでは時間がありません! 説明は後です。僕の言うことを聞いてもらえますか?」
ホームが部隊長さんに事態は急速に進める必要があることを伝えた。
「まあそれはかまわんが、それを聞いてリバテアにすぐにでも行けるというのか?」
「まさかそんな魔法みたいなことできるわけがないでしょ、隊長」
「それが、できるのです! ユカ様の力ならそれが可能なのです!!」
ホームさんがボクのことを部隊長に伝えた。
「救世主ユカ様!? 確か瞬時に移動したりできるとか天変地異を起こせるとか」
何だかボクの噂があちこちで大きくなっているようだ。
「そうです。ユカ様はここに一瞬でリバテアに行ける光る床を作れるのです」
ホームさんがボクにワープ床を作れと言っているのだろう。
でもボクが作れるのは決まった場所に行けるだけの床だ。
ここから移動しても冒険者ギルドの町にしか行けないはず。
「で、でも冒険者ギルドの町に行っても……」
「ユカ様、あの部屋のワープ床は各地につながっていますわ、フランベルジュ領、リバテア、私の家、それにミクニ、全部ユカ様が作ったワープ床から一瞬で動けますわ」
ボクの身体を使っていた『バンジョウソウイチロウ』さんはそういうことも想定してどこにでも移動できるようにしていたらしい。
「わ、わかった。やってみるよ。……僕の目の前の土地を移動できる床にマップチェンジ!!」
ボクの手から放たれた魔力は地面に大きな光る床を作った。
「こ……これが救世主ユカ様の力!」
部隊長さんが驚いていた。
「さあ、驚いている場合ではありません。僕に続いて皆さん付いてきてください」
ホームさんがワープ床に踏み込んだ。
するとその姿は一瞬で消えた。
「て……帝国騎士団、俺に続けー!!」
部隊長さんを先頭に、帝国騎士団は全員が怯えることも無くワープ床に踏み込んでいった。
「では……ボクも」
「お待ちくださいませ!」
ワープ床に踏み込もうとするボクをルームさんが止めた。
「ユカ様、ここにこのワープ床を置いたままにするとどうなると思いますか?」
「それは、モンスターとかが……そうか!」
「そうですわ、このワープ床は元に戻さないと、モンスターが冒険者ギルドの町に大量出現のスタンピードを起こしてしまいますわ」
ボクは冒険者としてはまだまだひよっ子だと思い知った。
そんな危険な可能性のことを考えていなかったからだ。
「おぬしたちはワシがまた、りばてあまで乗せてやるでのう。ここのわーぷ床は消しておくのじゃな」
「……ボクの目の前のワープ床を元の地面にマップチェンジ!」
ホームさんと帝国騎士団全員が移動後、ボクはワープ床を元の地面にマップチェンジで戻した。
「さて、急ぐぞい。もうすぐ夜明けじゃ!」
そしてボク達はドラゴンの姿になったアンさんに乗せてもらい、リバテアに急いで戻ることにした。