34 最高のユカの為の鎧
「勿論君たちからの依頼を終わらせてからだよ! 依頼を終わらせて信頼を得た上で関所の通行許可証をレジデンス伯爵に出してもらうんだよ」
私の中でこれにはしっかりと根拠があった。
RPGで通れるはずの場所が通れない場合は大抵フラグになっている。
そのフラグを解決する為には何かクエストを達成してフラグを立てなくてはいけないのだ。
これは現実にも当てはめられる事である。
何かをしてもらう為には、それだけの『等価交換』の交換条件が世の中の定義だと言えよう。
「ユカ様、ありがとうございます! 是非ともよろしくお願いします」
「私からも感謝致しますわ、では早速明日出発しますわ」
私達はまだベッドで寝ている男の人を残し、宿泊所の部屋に戻った。
◆
次の日、私達は準備をしてレジデンス伯爵の城に向かう事にした。
「ユカさん、冒険野郎Aチームのコング様から伝言です。町外れの鍛冶屋のターナさんに預けているものがあるそうです」
受付のお姉さんが言っていたが、そういえばアールバウトさんが町外れの閉まりかけた鍛冶屋って言ってたな……。
◆
私は町外れの鍛冶屋に向かった。
そこにはガッシリとした恰幅の良い女の人が、胡坐をかいてタバコをふかしていた。
この人がターナさんだろうか。
「ごめんください」
「何だい、客かい。アタシゃ今気が乗らないんだよ! また出直してきな」
「……あのー、アールバウトさんからここに来るように言われたんですが」
「なんだい! アンタがユカか。コングのやつにやたらと子供サイズの鎧を作れと言われたからいつもみたいにふざけてるのかと思ってたよ。で、アタシに何の用だい?」
ターナさんは不機嫌そうにぶっきらぼうに話していた。
「ここにアールバウトさんが持ってきた物があると思うんですが、ご存じありませんか?」
「アーあのバカが持ってきたデカブツの袋だろ。邪魔なんだよね、デカいし重いし」
「あのー……中身は見てないんですか?」
「どうせロクでもないもんだろうと思って物置に持ってったよ!」
この人……女の身で一人であの100キロ以上の袋の重さを持てるなんて、やはりスキルがそれに特化しているんだろう。
「すみません、あの中身……鉄の魔神の手首なんです」
「!!!!??? ユカ! それはマジかい!?」
ターナさんは大急ぎで、物置から巨大な袋を抱えて持ってきた。
「いいかい、開けるよ……! これは!? 凄い! どれだけ純度の高い古代金属だよ!!」
鍛冶屋の女の人は魔神の手首を触り、叩いて、眺め、調べていた。
「いいねぇいいねぇ! 久々にまともにいい仕事が出来るよ!! ユカ、さっそく採寸だ。アンタの為だけの最高の鎧を作ってやるよ!」
ターナさんはその手慣れた手つきでテキパキと作業を進め、私の為の子供サイズの鎧を作ってくれた。
「完成だよ、アタシの最高傑作だ! もしこれ以上の鎧があるんだったらアタシの目の前に持ってきな! 残りの金属はまた来た時に何か作ってやるよ! アンタ可愛いしね!」
この時、エリアが少し不愉快そうな顔をしていたのを、私は気が付かなかった。
「ありがとうございます!」
ターナさんは最高の仕事が出来た為にかなりの上機嫌だった。
実際ターナさんの作ってくれた鎧は薄くて軽く、動きの邪魔にならない上、機能美にもデザインにも優れた物だった。
「またおいで。サービスしてやるよ!」
この鎧は今までに見たどんな鎧よりも素晴らしい物だった。
父さんのお古の今まで使っていたレザーアーマーは勿論、先日フルボッコにした無駄に金をかけたヘクタールの私兵の鎧なぞ、比べ物にならない程の最高傑作だった。
「よし! 準備は整った。今度こそ出発だ!!」
準備の終わった私とエリア、レジデンス兄妹は、レジデンス伯爵の城に向かう事にした。