353 すり潰したプハの実の平焼き
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フロアさんはどうもサラサさんの料理が美味しくなかったようだ。
俗にいうメシマズ嫁というやつなのかもしれない。
「あなた、我もっと料理上手くなる。ガガモッチャしたプハのトハトペ以外も作れるようになっておく」
「あ、ああ。楽しみにしている」
フロアさんが料理の話から話題をそらしたいようだ。
しかしやはりあの料理の意味がまるで分からない。
いったい何語でどんなものなのだろうか??
「あの、ガガモッチャした……プハのトハトペってどういう意味ですか?」
「何を言っている。むしろガガモッチャしたプハのトハトペはガガモッチャしたプハのトハトペ以外に何というのか?」
ダメだ、まるで言葉が通じない。
「サラサ、すまない。ユカさんの言っているのは、アレがどういう作り方でどういう料理なのかって聞きたいようなんだ」
「そうか、それは悪かった。ではわかりやすく今から作ってみるから見てるがいい」
そう言うとサラサさんは台所の奥から瓶に入れた何かの実を取り出してきた。
小麦のように見えるが、独特の臭いを放っている。
「救い主、これ……プハの実」
どうやらプハというのは小麦みたいな穂に実る植物の実のことのようだ。
「このプハの実、我等の命の実、無くなると我ら滅ぶ」
このプハの実がフワフワ族の主食という事で間違いないみたいだ。
「これを、ガガ……モッチャする!」
そういうとサラサさんは平たい料理用の石でプハの実を叩いて硬い皮から中の実を取り出した。
「ガガ……モッチャってどういう意味ですか?」
「ガガは細かく、モッチャはすり潰すという意味」
つまり、ガガモッチャするとは……細かくすり潰すという意味らしい。
「ガガモッチャしたプハをトハしてトペするのだ」
トハの意味はよくわからないが、サラサさんは細かくすり潰したプハの実を水や家畜の乳と合わせて力を入れてよく練り上げていた。
独特の臭いがボク達の所に漂ってくる。これがプハの実の臭いなのだろう。
サラサさんは丸く平たく伸ばしたプハの実をよく焼けた平らな石の上に乗せて焼き始めた。
トハとは丸いとか平たいとかの意味なんだろうか、多分だが平たいの方で合っていると思う。
「ここでしっかりトペしないと、お腹壊す」
トペとは焼くという意味でいいのだろう。
つまり、『ガガモッチャしたプハのトハトペ』とは、細かくすり潰したプハの実の平焼きということなのだろう。
「焼けたぞ、熱いうちに食うがいい」
そして完成したプハの実の平焼きはパンの一種のようにも見えた。
サラサさんは何かの肉を叩き、ひき肉のようにしていた。
「今からヌルポのガッのノハノペも作る」
なんとなく意味は分かったが、やはりどうもこの料理はボクの好きな味とは違った。
ヌルポというこの辺りに住む小さな生き物をひき肉にして棒に巻きつけて焼くのがこの料理なのだろう。
あまり食欲のわかなかったボクはフロアさんに料理を食べてもらおうとした。
「この料理、かなり持つ。旅の食事持って行くがいい」
これはどうも断りにくい状態だ。
ボク達はこの料理を大きな木の葉に包んでもらい、旅に出ることにした。
「あなた、救い主様……また帰ってくるのを待っている!」
「ああ、必ず帰ってくる」
「では、早くワシに乗れ、ここから一気に城に飛ぶぞい」
ドラゴンの姿になったアンさんはボク達全員を乗せると、ゴーティ伯爵様の城目指して凄いスピードで飛んだ。
そしてボク達はその日のお昼には城に到着できた。
「おお、皆様お帰りなさいませ」
「ただいま、父上にすぐに会いたいが、今は大丈夫か?」
ホームさんが城に戻ってすぐにゴーティ伯爵様に話をしたいと言ってくれた。
「承知致しました、こちらへどうぞ」
そしてボク達は、ゴーティ伯爵様の待つ応接の間に通してもらった。