352 オセロの盤面
◆◆◆
ヒロは焦っていた。
今まで完全に勝ちだと思っていた状況で、マイルに思わぬ味方が出てきたのだ。
仲間なんて弱いものが群れること、相手は利用するだけだと思っているヒロには理解できない状況だった。
「なんで、なんでこのクズ共はアイツをかばうのよ!」
「ヒロ様、このままではマズいですよ。帝国の騎士団にもし色々調べられたら……」
「わかってるわよ! そんなことっ」
ヒロが荒れている。
このままマイルを処刑できていれば全て証拠も何もなくその場を片付けれるはずだったのに、今は帝国騎士団が到着してしまっているので、理由の無いでっち上げの投獄はむしろ為政者側が罰せられる可能性がある。
為政者であるタックス伯爵が罰せられるとなると、彼の家宅捜索や財産の押収までもがあり得る話だ。
そうなってしまうとタックス伯爵とズブズブのヒロのポディション商会にまで騎士団による操作のメスが入ってしまう。
今まで皇帝派の介入をさせないことで成り立っていた公爵派とポディション商会にとってそれは死活問題だ。
今ヒロはほとんど塗りつぶした盤面のオセロの角四隅を全部取られたような状況だった。
この状況は、ヒロにとって今まで完全に有利だったものが全て不利な状況の材料になり、このままタックス伯爵と一緒にいれば、確実にヒロのポディションション商会もタダでは済まない。
ヒロは指で血文字を書いて魔将軍アビスを呼び出した。
「あらあら、ヒロちゃん。大変な状態みたいねー。今アナタ不幸でしょ」
「ふざけないで! アタシの言うことを聞きなさいよ」
アビスが空中に浮かびながらヒロを見下していた。
「人間があまり偉そうな態度を取らない方が良いわよ。アンタは役に立つから特別扱いしてあげてるのだから……」
「わ、わかってるわよ。お願いします」
「そうそう、人間ふぜいは素直が一番よ」
アビスがニヤリと笑いながらヒロを見ている。
「それで、ヒロちゃんはアタシちゃんに何をしてもらいたいの?」
「異界の門を開いてくれる?」
「そういうことね、わかったわ。それで、今すぐヒロちゃんの家に行くの?」
「お願い」
「ヒ.ヒロ様……私はどうすれば良いのですか!? このままでは私は破滅です!」
タックス伯爵がヒロに泣きついていた。
だがヒロはその手を振り払い、タックス伯爵を見下ろした。
「アタシ……使えないゴミって嫌いなの」
「ヒ……ヒロ様ぁー!!」
途方に暮れるタックス伯爵は、そのまま何処かに消えたヒロのいた場所を茫然と見ていた。
そんなタックス伯爵の屋敷に騎士団が踏み込んできたのはその後だった。
騎士団が押収したタックス伯爵の仕事場では、賄賂の二重帳簿、奴隷売買の証拠や不正受給の許可証、架空請求の元締めの連絡先などが次々と発見された。
だが用意周到なヒロはその全てから、自身の関与を示すものを全て隠ぺい済みだった。
「タックス・オフィス伯爵。これだけの不正に賄賂、奴隷売買に関わった罪は明らかであり、また無実の人間を虚偽の罪で投獄した。この結果に間違いは無いな!」
「わ……私は悪くない! ヒロが、あの毒婦が全部悪いんだ! 私は騙されただけなんだ! そ、そうだ。公爵派の情報が欲しいんだろう。話す、何でも話すから私を助け……グゲェ!」
タックス伯爵の指から黒い液体が流れだした。
彼の指にはめられた指輪は何者かの意志で簡単に命を奪える物なのだ。
タックス伯爵は我が身可愛さに、公爵派の身内を売ろうとした。
だがそれを暴露する前に彼は何者かに命を奪われた。
◆◆◆
「あらあらあら、口は災いのもとだってしらないね、クスクスクス……」
「アビス……一体何があったの?」
「あら、ヒロちゃんは気にしなくていいのよ」
アビスとヒロは異界の門から財産ごと異空間に隠れていた。