351 情けは人の為ならず
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投獄されたマイルとカイリは牢屋の中で過ごしていた。
「おーい、メシはまだかー!」
「うるさい。黙れ」
カイリは相変わらずのマイペースだった。
マイルの方が座って何か考え事をしているようだ。
「あーし達捕まって……マクフライさん達大丈夫かな……」
マイルは自分のことよりも、マクフライ夫婦が無事かどうかを心配していた。
「へっ、お前らの財産は全部没収だとよ、つまりは従業員とかも全部ヒロ様の持ち物になるってわけだ。ヒロ様は使えないものは何でも捨てる方だからな、お前らの財産も全部仕分けされるってわけだ」
牢屋の番人はヒロのシンパの一人のようだ、タックス伯爵に従っている自分は安心な立場だと思い込んでいるらしい。
「ふーん、使えない者はゴミ扱いねぇ。それじゃあもしここからあーしらが脱出したらアンタも使えないゴミとして捨てられてしまうってわけよねぇ」
「出来るわけねえだろ。この鉄の牢屋を簡単に開けれるわけないんだからよ」
はっきり言ってレベル50の二人ならこんな鉄格子くらいは素手でも簡単に引きちぎれるくらいだ。
だがマイルとカイリの二人がそれをしないのはあくまでも仲間や身内を守る為、ヒロやタックス伯爵は二人が動けば身内に手を出してくる卑怯者だ。
「まあもう少し様子を見るしかないねぇ」
「まあそういうことだなー。寝てるかー」
「アンタのん気だねぇ。まあいいか」
マイルはいびきをかいて寝たカイリを微笑みながら見ていた。
「でもいざって時には頼りになるお兄ちゃんなんだよねぇ……」
マイルもやることが無いのでそのままゴロリと転がった。
ここは環境が悪かったが、マイルは賞金稼ぎをしていた時に野宿には慣れているのでまだ、雨風しのげるだけ十分寝れる場所だった。
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「いつになったらマイル達を処刑できるのよ?」
「ヒロ様、それが……処刑場の前に大量の住人がいて中に入れないんです」
「はぁ? そんなクズ共さっさと追い払いなさいよ!」
「それが……困ったことに、軍が到着してしまいまして」
軍は暴動を食い止めるためという形で自由都市リバテアに到着した。
だがこれは実際にはゴーティ伯爵による連絡を受けた皇帝派の騎士団による派遣だったので、住民には一切危害を加えてはいない。
その目的は時間稼ぎだったのだ。
「どういうことよ! 軍が来ないうちに処刑が出来るんじゃなかったの!?」
「私にもわかりかねます、内通者がいるとも思えませんし……こういう動きを想定しているような切れ者なんて……まさか!?」
「タックス伯爵、誰か心当たりでもいるの?」
「ゴーティ……元騎士団長のアイツなら」
タックス伯爵が頭を抱えていた。
「あの切れ者なら二手三手先を平気で考える。それにヤツには凄腕の諜報部隊がいるとか……」
「どうにかしなさいよ! この役立たず! アンタ更迭されたいの!?」
「ヒロ様、申し訳ございません」
「まあいいわ、処刑場が使えないなら別の場所に連れ出して……そこで殺してやるわよ」
ヒロは部下に命令してマイルとカイリを牢屋から連れ出した。
「アンタ達には海の藻屑になってもらうわよ。海に消えたとなったら証拠も何もないからね」
だが、海に行く道は住民達に塞がれていた。
その先頭にいたのはカイリの部下の船乗り達と旧バレーナ村だった時の村長だった。
「ここから先にはいかせませんぞ。マイル様達は儂らの恩人じゃ」
流石のヒロも軍がいる場所では、自警団に住民への弾圧を指示できなかった。
「こうなったら……郊外に連れ出して、そこでモンスターのエサにしてやる」
だが郊外に行く出口にはフランベルジュ領からの商隊が到着し、ヒロ達の前に立ち塞がった。
「マイル様達をお前の好きにはさせない」
商隊のリーダー、オンスがそう叫んだ。
マイルとカイリが前に助けた人達が、今度は彼女等を救ってくれる形になったのだ。