350 放火犯の濡れ衣
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カイリとマイルの二人のおかげで岬のレストランの火事は一人の死者も出すことなく解決し、助かった人達は喜んでいた。
そこに少し遅れて自警団が到着した。
「遅ぇーじゃねーかよ! もう火事は消し止めた後だぜー」
街の人達も到着の遅かった自警団に文句を言っている。
だが、自警団はいきなりマイルとカイリの周りを囲んだ。
「放火犯を捕縛しろ!」
「えぇっ!?」
「どういうことだよー! オイッ」
「口答えするな、この放火犯がっ!!」
レベル50超えの二人が本気を出せばこんな連中すぐにでも振り払う事が出来る。
だが、それでは周りにいる一般人に犠牲が出てしまうので、二人は無駄に抵抗をしなかった。
「オレ達は火事になっているレストランから人を助けてやったんだぜ! 感謝こそされ捕まる理由なんてねーよ!!」
「そう言っていますが、店長、放火をしたのはこの二人で間違いないんですね」
そこにいたのはヒロの手下の真っ先に逃げ出した店長だった。
「ええ、間違いありません。この二人が店の裏手に火を付けるのを私は目撃しました。私が逃げたと言っている人がいるみたいですが、私は自警団にこのことを通報しに行った形です」
ヒロは狡猾な女だ。
店が火事になったと聞いた途端、自分の店の過失による失火をマイル達の放火によるものだとすぐに擦り付ける為に下準備をしたのだ。
ヒロの手下のタックス伯爵はそれを聞き、消火作業よりもすぐに手配書を出して二人の逮捕に手を貸したのだ。
「汚ねえぞー! オイコラ。どういうつもりだー!!」
「その人達は放火犯なんかじゃありません!」
「もし容疑者でも疑いだけで処罰はできないだろぉ」
辺りの住民もマイルとカイリの二人の理不尽な逮捕に憤りを見せている。
しかしそこにタックス伯爵とヒロが姿を現した。
「無様ね、まあケモノは地面に這いつくばってるのがお似合いよ。アンタ達は死刑。この街の条例では放火犯は全財産を没収の上死刑よ、ここは自由都市。国の法律とは別の条例で成り立っているからね。ハーッハッハッハハ」
ヒロは高笑いをしている。
目障りなマイルとディスタンス商会だけでなく、何度も奴隷商売を潰してきた大海賊のカイリも死刑に出来ると喜んでいるのだ。
「ヒロォ……」
「フン、ケモノは檻に入ってればいいのよ」
「全くです、ケモノふぜいが商売など……身の毛もよだつ所存でございます」
タックス伯爵は合法的にディスタンス商会の隠し財産を横取りできるとほくそ笑むと、ヒロの横でペコペコしていた。
「やられたねぇ……まさかあそこまで人間腐ってるとは……」
「オレが捕まったとなったらあいつらが全員暴れるぜー。下手すりゃこの街で戦争が起きるかもなー」
「どうするのよ……」
「しゃーねぇ。ここは様子見と行くか」
マイルとカイリの二人は大人しく自警団に捕まり、そのまま牢屋に叩き込まれた。
「まいったねぇ……」
「ヒロっての、相当人間性腐ってるな。あそこまでの腐れ外道初めて見たぜー」
カイリは牢屋でそのままゴロリと寝転がった。
「そんなのんきでどうするのよっ!?」
「まあなるようになるって、大丈夫。いざとなればオレ達があんなザコ共に負けるわけねーだろ」
「確かにね、魔将軍とか大海獣に比べりゃあんな連中ザコよね」
「そーいうこと。ここはゆっくり休んで成り行きを見ようぜー」
◆◆◆
「アーっハッハッハッハ。最高の気分よ」
「ヒロ様。おめでとうございます」
「早く死刑にしてね、そうじゃないと皇帝派の軍が裁判のためと引き渡しを要求してくるから」
「勿論です、軍が来た時にはもう死刑が済んでいるようにしますので」
ヒロはマイル達を国の裁判にかけさせずに、そのまま極刑にしようとしている。
裁判となると証拠提出等が必要で、ヒロのでっち上げがバレてしまうからだ。
ここからはマイルもヒロもお互いが時間の勝負だった。