346 大灯台建設現場
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モービーディックの出現は、自由都市リバテアの人達に衝撃を与えた。
「おーっと、コイツはもう大丈夫だぜー」
「ピイイー」
カイリの前に小さな白鯨のハーマンが現れた。
「可愛い、この子って?」
「コイツはよー、あのデッカイ母ちゃん鯨のガキだぜー。オレの親友のハーマンってんだ。よろしくなー」
串揚げを買うために屋台に来ていた人達は突然のモービーディックの出現に驚いたが、カイリが実害がないと伝えると歓声を上げていた。
「凄い! こんな目の前であんな大きな鯨が見れるなんて」
「ここに買いに来たらまた見れるかもよー」
怪我の功名である。
自由都市リバテアで商売が出来ないからとマイルとカイリが始めた洋上での商売は、ホエールウォッチングの効果もあり、大繁盛した。
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「何なの……この報告は!」
「ヒ……ヒロ様。申し訳ありません」
「アタシ……大嫌いなものが二つあるのよ。一つは役立たずのゴミ。誰か、その使えないヤツさっさとゴミとして処分しなさい!」
「ヒ! ヒロ様、助けてぇー」
報告に来ただけの部下はヒロの機嫌の悪さによってゴミ扱いですぐにバスラ伯爵領に運ばれることになった。
「わきまえないヤツって本当に目障りね!」
ヒロは彼女のいう『身の程をわきまえない相手』が大嫌いだった。
彼女は居場紘子だった人生で、高校の時生徒会長だった。
その時、彼女と成績のトップを争っていたのは特待生で入ってきた少女だった。
紘子はこの身の程をわきまえない少女が大嫌いだった。
そして紘子は最悪の方法でこの少女の人生を潰したのだ。
この少女は人当たりも良く、友人も多かった。
それゆえに紘子も彼女を簡単には潰せなかった。
そして方法の思いついた紘子は勉強に一生懸命だった少女に文化祭の出し物としてバンド活動を推進した。
だがこれは紘子の罠だった。
少女は仲の良かった他の特待生の友人達とバンド活動を始めた。
見た目の良さと才能のあった彼女はあっという間に大人気になり、芸能界からもスカウトが来るほどになった。
そして少女は文化祭の成功の後専属のデビュー契約をしてもらった。
だがこれこそが紘子のかけた罠だったのだ。
専属デビューの決まった少女はオーディションに出ることになった。
そこで紘子は別に用意していたプロ候補生を使い、そのオーディションの優勝を奪い取らせた。
そして紘子の手のうちだった芸能事務所は優勝できなかったからと少女との契約を白紙に戻した。
将来の夢をバンドに向けてしまった少女とその仲間は挫折から学力がどんどん低下、そして勉強についていけなくなってしまった。
生徒会長だった紘子はその事実を突きつける事で、勉強ができるから特待生なのに学力を保てないなら存在価値がないという流れを作り、特待生達を全員退学処分に追い込んだのだ。
そして特待生を全員退学に追い込んだ彼女はその日、警察官僚まで招いて自宅で未成年のアイドル候補を当てがった酒池肉林の飲酒パーティーを開いて祝った。
紘子のいう身の程をわきまえない貧乏人を潰すのに使った金は数十億ともいえるだろう。
そこまでして彼女は貧乏人のチャンスを潰そうとしていた。
そんなヒロがこのままマイルに負けを認めるわけがない。
ヒロはタックス伯爵に告げ口をし、次の手に出てきた。
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「ここから先は立ち入り禁止だ。ここには大灯台が建設されることになった」
ヒロは桟橋のある一帯を一般人立ち入り禁止の大灯台建設現場にしてしまったのだ。
これでは串揚げを買うための人達が並びたくても並べない。
ヒロは工事を理由にマイルの客を潰そうとしてきた。
「ハーッハッハッハッハ。身の程をわきまえないクズにはオシオキが必要よね!」
勝ち誇ったヒロの高笑いが桟橋に木霊していた。