345 洋上の反撃開始
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マイルは、自由都市リバテアの洋上に串揚げの屋台を用意した。
ここならば現行の自由都市リバテアの条例や徴税は適応出来ない。
ここにもし何かを因縁着けようとするならば、国の法律そのものを変えるしか方法が無いのだ。
だが、国の法律を変えるには利権族の公爵派だけではなくゴーティ伯爵やラガハース子爵のような皇帝派の利権になびかない筋の通った貴族が反対するので一都市の条例的な捻じ曲げは出来ない。
マイルとカイリが洋上に店を用意したのはそのためだ。
船の上だと安定が無いと普通なら思われるが、カイリは潮流自在のスキルの持ち主なので何の問題もない。
「どうよー、ここなら安心して商売できるだろー」
「カイリ様、マイル様、ありがとうございます」
マクフライ夫婦が二人に頭を下げた。
「お礼を言うのは後だからねぇ。ここ数日分、理不尽に取られた油代も一気に取っ返すからぁ!」
「はい、マイル様。私達も頑張ります」
マクフライ夫婦は大量の串揚げとフライを用意し始めた。
そしてカイリとその手下は船での材料調達と、お客さんの運搬を開始した。
「洋上の串揚げ屋だぜー。買いたいやつは桟橋に並びなー」
串揚げを食べたいと思った街のお客さんはヒロのレストランの行列から離れ、桟橋の上に長蛇の列をなした。
「まずったなー、これもう一隻船を持って来てもらうかー」
カイリはお客さんの為の行きと帰りの往復用のシャトル便のため、もう一隻急いで小船を部下に用意させた。
小船が四隻に増えた事で、マクフライ夫婦の屋台のある調理用、材料をアトランティス号から調達する運搬用、お客さんを運ぶ行きと帰りのシャトル便二隻、この四隻でマクフライの串揚げ屋はあっという間に大繁盛した。
お客さんはどこまでも列が長くなり、その噂はついにヒロにまで伝わってしまった。
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「あの……ケダモノ女、アタシはわきまえない生意気な奴が大嫌いなの。そうね、タックス伯爵に言って不審な海賊船を排除という形で沈めてやるわ」
ヒロはタックス伯爵に告げ口をし、沖合いにいるのが海賊船だとして排除、本当は沈没させようと考えた。
ヒロの言いなりのタックス伯爵が、すぐに自治のための海上軍をカイリの船に差し向けた。
「海の上の治安を守るのも統治者の仕事、法律は関係ないわ。あくまでも自治のため……海の藻屑になってもらうわよ」
ヒロはマイルを合法的に武力的で排除できると高笑いしていた。
タックス伯爵の命令で自治のための海上軍がカイリの船やマクフライ夫妻の屋台を目掛けて船を出してきた。
その船は軍船である。
鉄で出来た戦艦ともいえるレベルの船を、ヒロは自治のためと言ってすぐに用意させたのだ。
この船なら小さな小船など体当たりしただけで海の藻屑だ。
ヒロは象がアリを踏みつぶすくらいのイメージでマイルを潰せると考えていた。
「アレが海賊船だ、自治のためにアレを沈めろとのタックス伯爵のご命令だ」
「でもアレってどう見てもただの屋台にしか見えないけどな」
「俺たちは命令に従うだけなんだよ」
軍船のクルーたちも理不尽な命令だとはわかっている。
だが上の命令には絶対服従なのだ。
仕方なく軍船は屋台を体当たりで潰す命令を実行しようとした。
だが、その時!
「グォオオオオオーーーン!!」
船乗りの誰もが恐れるそれが、いきなり海上に姿を現した。
「ヒェエエエー! アレは……モービーディック!?」
軍船の前に現れたのは救世主ユカのおかげで姿を消したはずのモービーディックだった。
モービーディックことホセフィーナはカイリの願いを聞き、邪魔しに来た軍船をその巨体で追い払った。
「あ……あんなものが存在するなんて……」
流石のヒロもこの件は全くの想定外。
そしてマイルへのヒロの妨害は失敗に終わった。