344 海の上は治外法権
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「マイル、とりあえず話を整理しようぜー」
「う、うん。状況としてはぁ……あーしがギルド商工会議所で料理の方法の特許申請と土地の権利を手に入れることができた。そのため、揚げ物を使った料理はあーしのディスタンス商会のオリジナルとして登録商標できたってわけねぇ」
カイリがうなずいていた。
「そうだなー、それを聞く限り、ヒロが手出しをする事は出来ないはずだぜー」
「だがアイツは、それを別の方法で潰しにかかってきたわけよぉ。アイツの考えは自分の飲めない水なら灰を入れてやるって考え方。この揚げ物の商売が横取りできないと分かった途端、政治的圧力で油に税金をかけるやり方を仕掛けてきたってわけ。油は料理に使うとは普通考えないので灯りに使うものって認識を悪用してきたってことよぉ」
カイリが一気飲みで酒を飲み干した。
「狡猾なやり方だなー。確かに治安を良くするための街灯を作ると言えば、誰も反対する理由がない。その上で油を大量に使うマイルの料理法だけを狙い撃ちにして税金で差し押さえれるってわけだー」
「それがヒロのやり方なのよぉ。アイツ、どう考えても常人が思いつかない方法であーしの商売を次々と潰してきたからねぇ」
カイリがニヤリと笑った。
「でも、おめーが泣き言言うためにオレに話したわけじゃないのくらいはわかってるぜー。オレとおめーの仲だろ、困った時は頼っていいんだぜー」
カイリが頼れる兄のような態度で自身の胸をどんと叩いた。
「ありがとう、カイリ。うん。もう方法は考えている。法律は問題無いので、後はカイリの協力があれば実現可能なのよぉ」
「小舟……何隻必要だ?」
マイルの表情が明るくなった。
「とりあえず、火に強い加工している船を三隻お願い。輸送用、調理用、販売用ってとこ」
「任せな、オレの手下も全員、マイルの為なら力を貸すって言ってるぜー」
「みんなにありがとうって伝えてねぇ」
「ああ。もちろんだぜー」
カイリはそう言うと停泊しているアトランティス号を目指した。
「さて、こちらも用意しないとねぇ」
ふと丘の上のヒロの経営するレストランを見ると人だかりができていた。
そこで作っていたのは串揚げとフライだった。
「なぜアイツはあれを作れるの!?」
カイリに借りた双眼鏡を覗いたマイルが見たのは、ひっきりなしに熱い油をかけさせられる料理人の姿だった。
料理人は命令され、油は飛び散り、火傷をしながら料理を作らされている。
ヒロは料理法がマイルに登録されたのでその特許料を支払わなくていいように熱い油をかけ続ける料理法を考え出したのだ。
「ひどい……料理人がかわいそう」
しかし客は長蛇の列をなし、レストランに入りきらない数が待っている。
ヒロは形的には油税を払っている形にしている。
だが、実際はタックス伯爵とズブズブな関係であり、その油税で街灯を作るのがヒロのポディション商会ということになるので油税はそのままヒロの手元に戻ってくるシステムなのだ。
「アイツ、あんなやり方に絶対に負けないからねぇ!」
「マイル、待たせたなー。船を用意したぜー」
「カイリ……ありがとうねぇ」
カイリの用意してくれた小さな船は防火加工されていた。
マイルはその船の上にマクフライ夫妻の屋台を作った。
この船には料理を作れるキッチンを作り、材料は海の上に移動したアトランティス号からもう一つの小舟で調達するシステムにした。
「これなら油税を払う必要ないからねぇ。ここは自由都市リバテアの土地ではなく、海の上だからねぇ」
「串揚げを買いたい人は船に並んでくれよー。油税を払わなくていい分安く買えるからなー」
マイルとカイリは自由都市リバテアではなく、リバテアから離れた洋上で商売を始めたのだ。