341 悪魔の知恵の持ち主
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『ヒロ・ポディション』
帝国二番手の商会であるポディション商会の会長『シャク・ポディション』とその妻である『スン・ポディション』の一人娘。
本来は引っ込み思案で対人が苦手な少女、だが獣人に対する偏見が強い程度の普通のすこしわがままな金持ちの娘だった。
獣人を怖がる態度をライバル商会であるディスタンス商会の会長の一人娘である『マイル・ディスタンス』に目を付けられ、いじめの対象にされる。
そして偶然のはずみで階段を転落したヒロは打ち所が悪く、そのまま死んでしまった。
だが、その時死んだのは引っ込み思案で獣人を毛嫌いしていたヒロの魂であり、その身体に宿っていたもう一つの邪悪な魂、居場紘子がその身体で動き出した。
そして異世界でヒロになった居場紘子は、その邪悪な性格と悪魔のような狡猾な計算高さで、父親の立場を利用して選民思想の貴族に取り入った。
邪神が多くの不幸を作り出せると称賛した程の彼女の力は、選民思想で強欲な公爵派貴族や教会関係者達を次々と彼女のシンパにしていった。
戦争の無い場所に争いを作り武器を売り、治安のよかった街に麻薬を蔓延させ常に不安定な状況を作り出し、税収を高くする口実を一般人の気づかないうちに政策として打ち出させ、現代社会におけるメガソーラー利権に当てはまる魔法陣によるエネルギー利権を作り出し、ヒロは公爵派貴族を操り帝国の財政と治安をボロボロにした。
また、ヒロは教会関係者に誘拐してきた子供や孤児を世話させ、魔法でその臓器を抜き出したり、奴隷として売るための仕事も作り出した。
他にもヒロは悪徳商法を税金で搾取されて困った一般人に友人を紹介すれば儲かると称したネズミ講のセミナーを開き、なけなしの金も奪い取り、払えないものを奴隷として売り飛ばし、ネズミ講を疑うものには依存性の呪いをかけた魔具によるカジノでギャンブル中毒にし、次々と不幸を作り出していった。
ヒロは選民思想の持ち主で、貧乏人の笑顔が大嫌いだった。
彼女は有る所の金を育てる商売をできるだけの頭を持ちながら、あえて貧乏人のなけなしのものを奪い取るのを至福の喜びとした。
そんな邪悪な魂の持ち主なので、邪神が彼女に目を付けたのである。
帝国はこの悪女と公爵派貴族のせいでズタボロになっていた。
だが、ヒロの計画はもう一人の転生者、板上創一郎こと、『ユカ・カーサ』に次々と打ち砕かれていく。
ユカは彼女のシンパだったヘクタール男爵を打ち倒し、その収穫祭に集まった公爵派貴族の集まりを壊滅させた。
だが、公爵派貴族達はまだ残っている。
ユカ達の目的地、時渡りの神殿。
ここは公爵派貴族、バスラ伯爵の領地である。
バスラ伯爵領はかつて風光明媚な観光地だった。
だが、現伯爵がヒロの金儲けの口車に乗り、元来の選民思想だった伯爵はこの土地を大規模なゴミ収集所にしてしまった。
ここは現在ゴミの山が国中から集められる帝国の汚物収集所になっている。
その中には使い潰された奴隷や、臓器を抜き取られた後の死体なども山のようにあった。
国最大のゴミ捨て場、時渡りの神殿は誰もに忘れ去られた場所にあるため、こんなゴミ捨て場の場所に存在しているとは誰も知らないのだった。
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「マイルのクズが……アタシに逆らうとどうなるか思い知らせてやるわ」
ヒロは部屋で最高級のワインを飲みながら、侍らせた男に鞭を打ち据えていた。
だが、その後ヒロは邪悪な笑顔を見せた。
「良いことを思いついた……コレでマイルも、あの女の商会も完全にオシマイよ」
ヒロはそう言うと何かをメモに書き出した。
「今度こそ、二度と復活できないようにしてやるわ……覚悟しなさい、薄汚いケモノ女! ハーッッハッハッハハ」
ヒロの屋敷の中で彼女の笑いが響きつづけた。




