340 居場 紘子 ヒロ・ポディション
もう一人の転生者がまさかの面接した相手でした
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居場紘子は荒れていた。
今まで人生で一度とて挫折など味わった事のない彼女が、ゲーム会社ごときに不採用の通知を受けてしまったのだ。
「なんでアタシが落とされなきゃいけないのよ! あの面接官、絶対に路頭に迷わせてやる……お爺様に頼めば何でもできるのよ。アタシをなめるな、ド底辺の働きアリのくせに」
彼女はホストクラブを借りきり、豪遊していた。
出所は当然彼女の金ではない。
彼女が預かっている裏帳簿からの金だ。
その出所は表に出せない金である。
それを彼女は好き放題に使える立ち位置にいた。
「アタシはね。負け犬が大嫌いなのよ。この店で一番売り上げの悪いヤツは誰?」
ホスト達は紘子の命令で売り上げの最低だった男を差し出した。
「負け犬には服なんていらないわよね。犬なんだから。服を脱いでワンと言いなさいよ」
彼女は弱い者いじめが大好きだ。
最底辺だからいじめられる。
社会的強者である自分はそれをいじめる事で恍惚感が得られると思っているのだ。
売り上げの悪かったホストは服を脱がされ、犬のマネをさせられた。
「キャハハハハ、負け犬にはプライドって無いのね。生きてる価値無いし死んだら?」
そして紘子は札束を裸のホストの前に放り投げた。
「この犬を殴ったらこのお金をあげるわ。早い者勝ちよ」
モラルの無いホスト達は金欲しさに裸のホストを殴る蹴るした。
「おっと、蹴ったヤツは誰? アタシは殴ったヤツって言ったわよね。アタシの命令に逆らったヤツは全員その札束と同じ額の罰金よ」
女王のようにふるまう彼女は、見せ金を使う事でホストを暴走させ、全員から罰金を取り上げた。
「キャハハハハ、アタシの命令通りに従ったらこのお金貰えたのにね。頭が悪いとそういうこともわからないみたいね」
結局彼女はこの日の支払いをホストに押し付けた罰金でタダよりも高く金を奪って店を出た。
「あー、気がおさまらない。あの板上とかいう男、絶対に路頭に迷わせてやるわ。それに何コイツら、こんな働きアリに生きている価値あるの?」
彼女は辺りの人間を蔑みながら歩いていた。
ドンッ!!
酔っぱらいながら駐車場まで歩いている彼女を後ろから突き飛ばした男がいた。
「えっ!!?」
そして居場紘子は車に突き飛ばされ、撥ねられた。
「え……アタシ、なんでこんな風に……倒れてるの。血が……誰か」
彼女を突き飛ばしたのは、さっき殴る蹴るされたホストだった。
「誰か……アタシを助けなさいよ、アタシはこの国の女性総理……になる女なの……よ!!」
おびただしい流血が辺りに広がる。
「イヤ、アタシは最強の勝ち組なのよ……それがなぜこんなとこで……イヤ、死にたく……ない……誰か……助け……て」
だが誰も彼女を助けようとはしなかった。
歩いている時ですら、周りを馬鹿にした態度だったのが仇になったのだ。
「死にたくない、死にたくない……痛い……痛……い」
そんな紘子に声が聞こえてきた。
「お前はいい魂をしている。さぞ多くの不幸を作ってくれるだろう」
「誰……アタシを助けなさいよ」
「グワッハッハッハ、我は『ダハーカ』異界の神だ。お前が我に魂を捧げるなら助けてやろう……」
「誰でもいいから、アタシを助けなさいよ!」
異界の邪神は紘子の息の根を止めた。
「フン、この世界ではなく……別の世界でなら助けてやろう。素晴らしい、どす黒く濁った最高の魂だ。この女ならさぞ多くの不幸を生み出せるだろう」
そして、居場紘子は死に、異界に転生することになった。
◆◆◆
「ヒロ! 何してんの。そんなとこにつっ立ってると邪魔なんだけどぉ」
「マ.マイルさんやめてください」
ドンッ
ヒロと呼ばれた女の子はバランスを崩し、階段を転げ落ちてしまった。
そして打ち所の悪かったヒロの魂はそのまま死んだ。
だが、ヒロのその身体には、邪神に呼ばれたもう一つの魂が入っていた。
居場紘子はこの時、『ヒロ・ポディション』として目覚めたのだ。