339 婚儀の宴
◆◇◆
ボク達は不思議な光景を見続けていた。
「なんという女じゃ、性格の邪悪さが辺りににじみ出ておるわ」
アンさんが時見の珠に映っていた女性を見て呆れていた。
その後も時見の珠はおじさんの行動を映していた。
そして、おじさんは馬のいない不思議な馬車に乗ったまま、道を転落して死亡した。
「……どうやらあの『ばんじょうそういちろう』という男がユカ坊の前世のようじゃな」
『バンジョウソウイチロウ』
あのおじさんが、ボクの意識の無い間に冒険をしていたのだろう。
でも、あの不思議な箱の中に世界を作り出すスキル、あのスキルを持っているなら……そりゃあ魔将軍でも倒せるのかもしれない。
そして、時見の珠は光を失い、ただの虹色の珠に戻った。
「救い主、過去見れたか。では、時渡りの遺跡に行くがよい」
「時渡りの遺跡?」
「うむ、時渡りの遺跡、ここより遠い場所にある。思いの強き者がそこに行けば時を渡る事が出来る、儂夢のお告げ聞いた」
どうやらボクが過去の自分と向き合うためには、その時渡りの遺跡に行かないといけないようだ。
「はい、わかりました。ウルツヤ様ありがとうございます」
「うむ、みなの者集めよ。儂から話ある」
そしてボク達は、地下の祭壇から族長ウルツヤ様の家の前に移動した。
「ユカ様、大丈夫でしたか」
「うん、次に行くところがわかったよ」
「本当ですか、では出かける準備致しますわ」
族長ウルツヤ様が、集めた集落の人達に話を始めた。
「みなの者、聞くがよい。これより救い主様時渡りの遺跡に向かう。今夜救い主様と、亡き勇敢なる者ボンバヘ、その子孫であるフロアのために宴開く。みなの者、準備を始めよ」
「「「オオオオー」」」
族長ウルツヤ様の指示で集落の人は歓声を上げた。
◇
そしてその夜、盛大に宴が開かれた。
集落の人達みんなが楽しそうに歌って踊って飲んで食べていた。
そんな盛り上がりの中で族長ウルツヤ様が中央に立ち、大きな声を上げた。
「今ここで宣言する。儂の孫サラサと勇敢なる者フロアの婚儀を儂は許そうと思う。フロア我が一族として迎え入れてくれ」
「長……お爺様、ありがとう……ございます」
「俺が……サラサと……」
フロアさんに美しい花嫁衣装を着たサラサさんが寄り添った。
そして、サラサさんは美しい虹色の石の首飾りをフロアさんの首にかけた。
「この首飾り、古代の神殿に残されたフンワリ様のもの。我、それを直し、お前に渡す」
「サラサ……」
フロアさんがサラサさんの腰に手を回し、ギュッと強く抱きしめた。
すると集落の人達が、全員大きな声で二人を祝福した。
「今ここに二人の若者が契りをかわした。これより勇敢なる者フロアは戦いの旅に向かう。サラサはフロアの帰りを信じ、ここで待つ事が出来るか」
「はい、我はいついかなる時もフロア様待ち続けます」
「フロア、勇敢なる者よ。どんな強敵も打ち倒し、生きてこの場に戻ってくることを誓うか」
「勿論だ、モッサールの誇りにかけて約束は守る!」
フロアさんとサラサさんの二人の誓いを集落の全員が聞き、盛り上がりはさらに最高潮になった。
「良いのう、こういう楽しい宴はいつ見ても良いもんじゃ。ホンド坊の時なぞ婚儀の儀式は国を挙げて一週間以上続いたわい」
「はあー、羨ましいですわ、私もいつかはユカ様と……」
「ルーム! 今はやめておくんだ!」
「ハイ……仕方ないですわ」
その後も宴は続き、新たに夫婦になった二人を祝福した人達はいつまでも夜を忘れて盛り上がっていた。
翌日、フロアさんがサラサさんに連れられてボク達の所に戻ってきた。
なんだか少し疲れたような様子だったが、それでも二人は幸せそうだった。
「フロア。我、あなたの帰りを待っている。戻ってきたら……今度こそ美味しい料理作れるようにする」
「あ、ああ……頼む」
あまり言いたくないが、どうやらフロアさんはサラサさんの料理が美味しくなかったみたいだった。