338 最悪の女
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「それでは株式会社『トライ・エニアックス』最終面接を開始させていただきます。私は面接官の板上です」
「同じく面接官の土岐田です。よろしくお願い致します」
「それでは、居場さん。貴女の小中高の頃についてお聞かせください」
その質問に椅子に座った居場はこう答えた。
「失礼ですが、それは必要な質問なのでしょうか? 個人のプロフィールでしたらエントリーシートに記載しておりますし、今の質問の重要性をア……私は必要だと感じません。ですが、どうしても答えないといけないというのでしたらお答えいたします」
彼女の態度に面接官の二人は悪印象を持ったようだ。
「私は小中高と一貫してトップの成績を取ってきました。また、生徒会長も常に歴任してきており、集団の統率には自信があります。集団は優秀な人間が統率しないと何もできないので私が常に先導することで、私の所属した学校は常に優秀な成績を数々作り上げてきました」
「そ、それは素晴らしいです……。それで、居場さんにお聞きします」
板上はこれ以上話させると彼女はいつまでも自分の過去を自慢すると思い、質問を切り替えた。
「はい、何でしょうか」
「貴女が弊社を志望した動機をお聞かせいただけますでしょうか。どうやら貴女は優秀ですが他の会社にはエントリーしていないようでしたので……」
「はい、私が御社を志望したのは、和田原社長がいるからです」
彼女の発言で、場の空気が凍り付いた。
だが、居場はそんなことを、気にも留めず話を続けた。
「経営の天才和田原洋行。あの方が御社の社長なので私は志望致しました。かつてトライアの副社長だった堀口氏が作った映画興行の失敗による負債で大きく傾いた御社を立て直したのが経営の天才和田原社長です。私は和田原社長に憧れております。無駄を一切省き、人材にもならない使えない社員は切り捨てて常に優秀な者だけを残す、今の我が国に必要なのは和田原社長のような経営手腕だと言えます」
居場の話を聞いていた板上は無表情だった。
彼の中にはもう彼女に対して、何も言いたくないというくらいの気持ちがあふれている。
「そ……そうですか。それは立派な志望動機です。それでは、貴女は……ゲームは好きですか?」
居場は板上の質問に笑うような感じで回答した。
「くだらないゲームは嫌いです。世界を救うとか、モテない男が女に告白される為に努力するとか……出来もしないことをゲームの中で疑似的に体験する負け犬の現実逃避の為のゲームは時間の無駄、その時間を取り上げてもっと仕事をさせればいいと考えています。……ですが、マネーゲームは大好きです。アレは持つ者、強い者がハッキリわかる世界のシステムそのものです。強者が負け犬から全てを奪い、その嘆く姿を見るのが、昂揚感が高まって来て最高のゲームだと思います」
これは……絶対に相いれない相手だ。
板上は居場のことをそう感じていた。
「ご回答ありがとうございます。それで、貴女はホールディングス希望とのことですが、もし希望の部署に就けなかった場合でも弊社を希望致しますか?」
土岐田が居場に質問した。
「それはあり得ません。私の父は居場経済産業相です、私の希望が通らないわけがありません」
この発言は面接官の二人に決定的な印象を与えた。
「ありがとうございます。面接は以上になります……結果はおって、ご連絡させていただきます。本日はお越しくださいまして誠にありがとうございました」
面接官の二人が頭を下げた。
しかし居場は頭も下げずその場を立ち去った。
「次の方……どうぞ」
「は、はい。あたし……庭野のばらといいます。どうか。よろしくおねがいしますっ!!」
その後――居場紘子の面接結果は……当然の不採用だった。