32 レジデンス伯爵の器
『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス伯爵』
私達の住んでいるこの辺りは、レジデンス伯爵領と呼ばれている。
レジデンス伯爵は名君と言われており、かつて国一番の為政者だった『ボルケーノ』大臣を師匠に持ち、若い頃 は国一番の猛将『パレス大将軍』にも匹敵する程の強さの元騎士団長だったらしい。
ホームとルームの二人は、そのレジデンス伯爵の代理として冒険者ギルドにやって来たのだ。
私はこのみっともない状況を客人に見せてしまった事を反省……。
「……えー、大変お見苦しいものをお見せしてしまいました……」
「そんな事ありません! ユカ様の強さを目の前で見させていただきました」
「むしろ私たちがお願いしたいのは少し血なまぐさい事ですので、この程度の事ではビックリしませんわ!」
この双子はこの程度の事では全く動じないようだ。
流石は元騎士団長の子供達だと言えよう。
しかしこの双子、見れば見る程そっくりである。
違いと言えば性別と髪型くらいの物だろう。
双子と言えば私が手掛けた“ドラゴンズスターⅣ”にも見習い魔法使いの双子を出したっけ。
あの双子は少し背伸びしたいお子様が生意気な態度を取るキャラの兄とそれを抑える妹って立ち位置だったので、今の目の前の双子よりはよほど性格がお子様だったな……と思い出した。
そしてこの双子、見た目的には可愛いらしい金髪碧眼でまるで最近話題のボーカロイドキャラの兄妹のようにも見える。
そりゃあこういうキャラは人気が出るものだろう。
見た目が可愛らしいのだ。『可愛いは正義』である。
「改めてご挨拶させていただきます。僕はホーム・フォッシーナ・レジデンス。ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス伯爵の息子で見習いの聖騎士をさせていただいております」
「私はルーム・フォッシーナ・レジデンスですわ。いずれ大魔法使いになるために修行中の魔法使いですわ!」
ホームは自身の立ち位置をわきまえているが、ルームは今の実力不足の自分を認めたくないので見習いって言葉を使いたくないと言うのが自己紹介から感じられた。
「それで、レジデンス伯爵様のご依頼とは?」
「はい、レジデンス伯爵の依頼したいのは、盗賊退治とモンスター退治です」
「領内はもうすぐ収穫の時期ですわ、それに合わせたかの様にあちこちの街道に盗賊やモンスターが現れて主に食料を奪っていくのですわ! これでは領民達の食べる物が無くなって飢えてしまいますわ!!」
「レジデンス伯爵としては、当分我が家の備蓄を出せば領民を食べさせる事は可能だが、それでは根本解決にならないと言っております」
「……それで、冒険者ギルドにモンスターと盗賊を退治してほしいってわけか」
「その通りです! ユカ様、全部人任せにはしません、僕も戦います。ですから是非とも助けてください!」
「お願い致しますわ、お礼でしたら私たちのできる事でしたらなんでも致します。このまま領民を飢えさせてはお父様の恥になるのですわ!」
双子は深々とお辞儀をして私に依頼を頼んだ。
その事で私はレジデンス伯爵という人物の立派さに心底感心した。
通常貴族は人に頭を下げるのを恥だと思い込む連中が、大半だからである。
子供がこれだけの事が出来るという事は、親の教育がどれだけ立派だかの証明になると言えよう。
「わかりました! ご協力いたします!」
私の一言で冒険者ギルドが喝采で沸いた。
その横でギルドの受付嬢が書類の確認をしていた。
「私共受付としましては、後々ゴーティ・レジデンス様に正式な依頼書類を出していただく形になります。しかし今は緊急事態ですので、略式でこの場にいる全てを証人としてこの依頼を冒険者ギルドで承ります」
では、盗賊退治といきますか!!
「……この依頼、おいしそうねぇ」
この時、冒険者ギルドの片隅で、薄闇色のフードをかぶり舌なめずりしていた人物がいた事に、私達は気が付いていなかった。