332 光と水と大衝撃
「「バ……バカなァ!? 余の身体が溶けるだと……」」
邪神竜ザッハークはボクのスキルで作った大きな温泉に転倒して落ちてしまったことで、その巨大な翼を失った。
邪神竜ザッハークの翼は骨と皮だけを残し、飛ぶのに必要な皮膜を失ったのだ。
「「グアアアアァァー! く、苦しい、余に聖なる水を使うとはぁー」」
どうやら邪神竜ザッハークの弱点は光などの聖属性と水属性のようだ。
それなので癒しの力を持った水による温泉はヤツには致命的なダメージになるらしい。
「邪神、我の弓でキサマ討つ!」
温泉に足元まで浸かったサラサさんはそのお湯に弓と矢を一度沈めて持ち直した。
「キサマ、聖なる水弱い、我……キサマ倒す!」
サラサさんは温泉に浸った弓矢を持ち、その矢を邪神竜ザッハークに放った。
放たれた矢は邪神竜ザッハークの目を抉った。
「「ギャアアアァー、目がぁー! 目がぁっぁぁー」」
残っていた片目を失い、邪神竜ザッハークの一つの首は何も見えなくなっていた。
「ボンバヘ様、我……邪神のもう一つの目、奪った!」
「「殺す! キサマの集落の者共も全て皆殺しだぁあああー」」
「白き獣オソイッ! サラサを守ってくれ!」
「承知した、我が主よ!」
フロアさんが呼んだ白い獣オソイは暴れ狂うザッハークからサラサさんを守った。
「白き獣、我……助けた」
「我が主の命だ。我、其方の力になろう!」
実体の無い白い獣オソイは邪神竜ザッハークの攻撃を全てすり抜けた。
だがオソイの牙や爪は邪神竜ザッハークを確実に切り刻んでいる。
「「獣ふぜいがぁ、神である余に逆らうというのかぁー!!」」
「キサマが神なら我は白き悪魔だ!」
オソイの鋭い牙は、ザッハークの首を斬り裂いた。
おびただしい黒い血が温泉を黒く染めていく。
そして邪神竜ザッハークはあることに気が付いた。
「「グワッハッハッハ、余を苦しめる聖なる水は燃やし尽くしてしまえば良いのだ」」
ボクはとっさにスキルで地面の高さを変えた。
「ボクの周りの床の高さを高くして!」
ボクのスキルで全員のいる床の高さが変わった。
その直後、温泉だった場所はザッハークの吐いた灼熱の火炎で全て吹き飛ばされた。
「「グワッハッハッハ、これでもうこざかしい真似は出来まい!」」
邪神竜ザッハークが翼をはためかせ、ボク達の所に飛ぼうとした。
だが、翼は上下に動くだけで空を飛ぶ様子は見えない。
「バカな!? 余が……飛べぬだと」
そういえばルームさんがこの神殿でワイバーンを倒した時、皮膜を失ったワイバーンは空を飛べずに地面に落下していた。
もしかすると、邪神竜ザッハークのいる場所をものすごく高くしてから地面に落とせば凄い攻撃になるのではないのだろうか。
「邪神竜ザッハークの足元の高さを……ボクの魔力の限界まで高くしてくれ!」
「「ぬあああっー!??」」
ボクのスキルは邪神竜ザッハークの足元の床をものすごく高くつき上げた。
その高さは地底の大空洞である神殿の天井近くまで持ち上がり、邪神竜ザッハークの姿が見えないくらいの高さになった。
「そこから一気に元の高さに戻してくれ!」
「「ぬぐわああああー!!!」」
ボクはもうmpの限界だった。
そんなボクがスキルを使えたのは、ボクの手をルームさんが握ってくれたからだった。
ズドオオオオオオォォーン!
辺りに凄まじい衝撃と地響きが鳴り響いた。
物凄く高い場所から一気に落とされた邪神竜ザッハークは、地面に凄まじい速さで落下し、大ダメージを受けた。
「「グォォ……余が、なぜこれほど無様な姿を……」」
「残念じゃが、そなたの命運もここまでじゃ!」
ボク達が声のした遥か上の方を見ると、そこには光を背負った形の紫のドラゴンの姿が見えた。
「どうじゃ、そなたの苦手な陽の光をくれてやるぞ!」
大空洞の上に大きな穴が開き、そこにいたのはドラゴンの姿のアンさんだった。