319 冒険者達
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ネズミ達は集団でオソイの鼻に噛みついた。
一匹一匹は小さな力でしかない。
だが、ネズミ達はその小さな力を集め、オソイの弱点である鼻に噛みついた。
「ギャアアアーーー!!」
あまりの痛みにオソイは噛みついていた俺の手を離してしまった。
手からは血がダラダラ流れている。
オソイは鼻に噛みついたネズミを振り払おうと暴れていたが、手が鼻に届かないらしい。
骨格というか体格の問題だろう。
素早く動き、ネズミや小動物、あるいは人間や魔族すら倒す程のS級の強さでも鼻先に噛みつかれると振りほどけないようだ。
「お前達……俺を助けてくれたのか」
「チュウウウウ! チュウチュウ」
リーダー格と思われたネズミがオソイの鼻先に噛みついて指示を出していた。
「尻尾を立てろ……ボク達の為に戦ってくれた人を手伝うんだ……か」
「チュウ!」
「ありがとう、後は俺に任せてみんな下がれ、このままでは犠牲が増えるだけだ!」
俺がそう言った事で、ネズミ達はオソイから離れて岩陰に隠れた。
「グクアアアアーー!!」
オソイの身体に変化が生じた。
今まで真っ白だった身体が、どんどんどす黒くなっていく。
「な、何だこれは……わたしの……身体が?」
オソイは怒りの感情に憑りつかれたことで、鋼のような意志が脆くなったらしい。
そのため、今まで魔素に侵されていなかったのが一気に襲いかかったようだ。
「く……苦しい、何だ……コレは」
「オソイ、お前……」
「勇敢な者よ、わたしが頼めた義理ではないが……願いを聞いてほしい」
「どうした、オソイ」
苦しそうな声でオソイは俺に願いを言った。
「わたしが……、まだ正気を保っている間にわたしを殺してくれ。わたしは自我を失ってまで生きたくはない」
「……わかった。その願い、聞き受けた」
「感謝する……だが、わたしもわたしである限りは手を抜かず、最後まで誇りをかけて戦わせてもらう!」
「望むところだ!」
そして、オレとオソイの命を賭けた一対一の戦いは、最後の幕が切って落とされた。
オソイはその爪で俺に襲いかかる。
俺は爪をかわし、その鼻先を鞭で打ち付ける。
そんな攻防戦がずっと続いた。
オソイの身体はどんどん巨大化し、その体が真っ黒になっていく。
早く倒さないと魔素に侵された完全な魔獣になってしまう。
だが俺は決定打に欠けていた。
オソイは傷つきながらもまだ素早く動けるくらいだ。
俺は辺りを見回した。
この辺りは石がゴツゴツしている。
どうやら古代の鍾乳洞のようだ。
「チュウ……」
「お前……逃げなかったのか」
俺はこの勇敢なネズミに尋ねてみることにした。
「頼む、この奥に尖った石がたくさん生えている場所があるか調べてくれ」
「チュウチュウ!」
勇敢なネズミはオレとオソイの間を駆け抜け、洞窟の奥を目指した。
俺はオソイの攻撃を避けながら鞭を打ち続けた。
そしてネズミが帰ってきた。
「チッチュウウチュ」
「そうか、わかった! ありがとう。もう隠れていろ」
思った通りだ、この奥には鍾乳石が氷柱や剣山のように上下に生えている場所があった。
俺は戦いながらその方向にオソイを誘導した。
オソイはもう全身真っ黒に染まってきている。
そして、剣山のような鍾乳洞に先に到着した俺はオソイを待ち受け、鞭をしまった。
「ギャアアアアーー!!」
自我を失ったオソイが俺に襲いかかった。
俺はそれを避けずに立ちはだかる。
オソイの鋭い爪が俺を襲った。
グサッ!!
「ギャガギャアアアア―!!」
だが、オソイの爪は俺に届かなかった。
オソイの巨大化した全身は、上下の鍾乳石にくし刺しにされた。
苦しそうなオソイが暴れ続ける。
だが、動けば動くほどオソイの体には上下の鍾乳石が食い込み、オソイの身体からは血と魔素がおびただしく流れ続け、オソイはその巨体を横たえた。
俺は、この恐るべき悪魔に勝ったのだ。