318 白き悪魔オソイ
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俺は悪魔のノドのさらに奥を目指した。
道を調べに行ったネズミ達が怯えるほどの狂暴な魔物、一体何がいるのだろうか。
「チュウッチュウ……」
白い……悪魔。
ネズミ達が言ってるのは、洞窟の中には白い悪魔がいてその奥には行った事がないという話だった。
ネズミ達の言う白い悪魔……どのような魔物なのだろうか。
確かに何か恐ろしい怪物がいる気配がする。
成人の儀でここに来たフワフワ族の戦士も、この奥まで入った事が無いのだろう。
俺は鞭を握り、敵の襲撃に備えた。
「ッシャシャシャシャ……」
何かの笑い声が聞こえる。
俺はその方に向かった。
すると、そこにいたのは大量のネズミを喰らい尽くす、人間よりも巨大な真っ白の獣がいた。
白い毛皮はネズミの返り血で所々が赤く染まっている。
この怪物は、強い!
俺は怪物を強く睨んだ。
「シャアアアッー!」
ネズミを食べていた白い悪魔は、食べかけのネズミを投げ捨て、物凄い速さで俺に襲いかかってきた。
「ックッ!!」
俺はとっさのところで攻撃をかわした。
今の俺はかなりの戦いをこなしたので、一人でもそこそこの相手とは戦えるはずだ。
だが、この白い悪魔は、A級、下手するとS級モンスターの強さだ。
そして、この怪物は……俺の言葉がわかるらしい。
「お前は誰だ!」
「カカカカカ……お前はニンゲン……いや、ケモノビトか」
「そうだ、俺はモッサール族のフロアだ!」
「ようこそ、薄汚い侵入者諸君……ようこそ……」
どうやら俺はコイツに、ネズミ達に頼まれた用心棒だと思われているようだ。
「わたしの名前はオソイ。この洞窟の主だ」
「オソイ、お前は魔素に侵されているわけではないのだな……魔獣なら俺の言葉がわかるとは思えん」
「左様、わたしは魔に侵されたりはしておらん。そこにある骨はわたしに挑んだ魔族のなれの果てだ」
コイツは魔族すらも倒す程の強さなのか。
魔素に侵されていないでコレだけの強さを持っているコイツは間違いなくこの洞窟の主だと言えるだろう。
「さあ、かかってこい。強き者よ」
「そうさせてもらうっ!」
俺は鞭を構え、白い悪魔オソイに戦いを挑んだ。
オソイは恐るべき速さで壁を蹴り、四方八方から俺に襲いかかってきた。
一撃が確実に致命傷になるほどの牙や爪だ。
普通のレベルの冒険者なら、もう既に全身をバラバラに砕かれているだろう。
だが俺はあの赤い大海獣やクリスタルドラゴン、魔将軍とも戦った経験がある。
その経験の上でコイツはかなりの強敵だとわかる。
白い悪魔オソイは俺を強敵と認めている。
俺の鞭は何度もオソイに当たっているが、お互い致命傷になるようなダメージは与えられていない。
コイツとの勝負は……一瞬で決まる!
あれだけ動き回っていたオソイがいきなり立ち止まった。
するとオソイの目が真っ赤に光り、俺を睨みつけてきた。
「カッカッカ……動けまい、怖れよ、わたしを怖れよ……」
この白い悪魔は目で睨んだ相手を意のままに操れるらしい、レベルの低い相手なら動く事すらできまい。
だが、俺はその睨んだ目を睨み返した。
「ほう。わたしの催眠術を打ち破るとは……やるものだ」
俺はオソイの隙を狙い、鞭を打ち付けた。
「ギャオオオオ!」
オソイは鼻先を打たれ、苦しんでいた。
「キサマ……許さん、バラバラにしてやる!」
オソイが怒りに燃える目で俺を睨みつけ、牙で腕に噛みついてきた。
「ぐぅあああっ!!」
「逃さん、キサマはわたしが屠ってやる、強き者よ。わたしに敗れる事を誇りに思うがよい……」
くそっ、このまま俺が負けたら、一族の誇りどころか何も成し遂げる事が出来ない……。
オソイに腕を噛みつかれたまま、俺はそれを振りほどく事が出来なかった。
「チュウウッッ!!」
ネズミ達が群れでオソイの鼻先に噛みつく。
なんと……俺を助けたのは、ちっぽけで勇敢なネズミ達だった。