316 聖狼の子
フロアさんは先祖の聞きたくない事実を聞かされた。
しかしそれで彼は落胆したのではなく、誇りを取り戻すと言った。
「ほう、だがやめとけ。黒い竜の邪神。とても強い、お前死にに行くか」
「俺は死にはしない、そしてモッサールの誇りを取り戻す」
「そうか、ではお前成人の儀を受けろ」
族長ウルツヤ様はフロアさんに成人の儀を行えと言った。
それをすれば認めてもらえるのだろうか?
「わかった、その場所に連れて行ってくれ」
「お前本気か、この儀式、失敗死ぬ」
「望むところだ。死を恐れるなぞ、一族の恥だ」
フロアさんは成人の儀を受けると言った。
「よかろう、儂ついて来るがよい」
ボク達は立ち上がり、族長の家の外に向かった。
その時、族長がボクの身に着けていたマントを見て驚いた。
「救い主、その毛皮……聖狼のもの。これ、どうした?」
「これは……ボクがもらったものみたいなんです」
「それは俺が説明する」
「モッサールの者、どういう事?」
フロアさんはどうやらボクの知らない間に何があったのかを全部説明した。
そして、ボクも知ったのはこのマントが銀狼王と呼ばれた『ロボ』という名の狼の忘れ形見で双子の世話を見るお礼に受け取った物だということだった。
ボクは何度もこの毛皮のマントに助けられた。
このマントは下手な鋼鉄の鎧よりもよほど強かったからだ。
「そうか、銀狼去ったか。ではそこいるの銀狼の子というわけだ」
シートとシーツの双子はフワフワ族の子供達に囲まれて、とても楽しそうだった。
子供達はシートとシーツの大きな背中に乗せてもらい、みんなが喜んでいる。
「儂聞いた話。ずっと昔、ここ聖狼の子供いた。その子供フンワリ様懐いていた。フンワリ様ここ捨てた、その時聖狼の子供、ここ去った。救い主、その毛皮、その時の聖狼族の子供」
どうやら銀狼王は元々ここに住んでいたらしい。
そしてボンバヘさんとフンワリさんがここを出た後、銀狼王は二人を追いかけたのだろう。
「聖狼、ここ戻ってきた。竜の神と救い主連れて。あなた達邪神の竜倒せるかもしれない」
族長ウルツヤ様は私達を連れて、山を目指す事になった。
「この者サラサ、儂の孫。救い主、道案内する」
「我の名、サラサ。村の戦士」
「よ、よろしくお願いします」
ボクは手を差し出したがサラサさんはその手を握り返さなかった。
「今、馴れ合う時でない。我、救い主様案内する」
そしてボクとホームさん、ルームさん、アンさん、フロアさんにシートとシーツの全員は、サラサさんの案内で山の奥に向かった。
「着いたぞ、ここ成人の儀の洞窟」
ボク達の目の前にあったのは、大きく口を開けた怪物のように見えた洞窟の入り口だった。
「ここ、悪魔のノド。成人の儀、ここで大きい虹の石持ってくる」
「ではみんなで行こう!」
「ダメだ。成人の儀、一人で行うもの」
「ユカさん、ここは俺に行かせてくれ。これは俺がやり遂げなければいけない事なんだ」
フロアさんはボク達にそう言うと、一人だけで洞窟に向かった。
「フロア、お前勇気あるものかどうか、ここでわかる」
「ああ、オレは誰よりも大きい虹の石を持って戻ってくるぜ!」
そう言うとフロアさんは悪魔のノドに松明を持って入っていった。
「フロアさん……大丈夫かな」
「ユカ様、あの方なら大丈夫ですわ。仲間を信じて待ちましょう」
「僕も信じてますよ、みんな仲間です」
「まあワシもあやつなら成し遂げると思うわい」
みんながフロアさんの戻ってくるのを信じていた。