30 ユカ、ブチ切れ五秒前!
「大丈夫か!? しっかりしろ!!」
「おれ……の事はどうでもいい、みんなを……助けてくれ…………」
そう言うと男は、息も絶え絶えに力尽きた。
このままでは余命いくばくもない。
男の体は何人がかりでやったのかわからないくらいボロボロだった。
全身血まみれのあまりのひどさは骨折や青あざ、打撲に切り傷だらけで、服はかろうじて残っているくらいだ。
「酷い……私、この人を助けてあげたい」
「エリア……」
「はぁ……、エリアの姉さん、無理だよ……コイツ、ここまで歩いてきたのも奇跡みたいなもんだ、気力だけでここまで来たんだよ」
「助からないまでもせめてきちんと埋めてやるのが冒険者の流儀かな、しかしこれはヒデェな」
「ユカ……!」
エリアの目は真剣そのものだ。
たとえ助からなくても目の前の人を助けてあげたい。
その気持ちはよくわかる。
しかし、ここでレザレクションを使えば、エリアの秘密が大多数にバレてしまう……。
私は悩んだが、そんな一瞬でも目の前の瀕死の男はどんどん死に近づく。
そして、考えた私はある事をひらめいた!
「エリア、遺跡にあった秘宝の力って使えるのかい? 古代の人の残した力ならこの人を助けられるかもしれない!」
「ユカ……」
私はエリアの力を遺跡で手に入れた秘宝の力という事にして、使う事をすすめた。
「うん! 私、この人助けてあげたい」
エリアは持てる全ての力で、目の前の瀕死の男の傷口に触れた。
すると温かい光が辺りを包んでいく。
そして瀕死で土気色だった男の体は血色がよくなり、荒い息は穏やかな寝息に変わっていった。
エリアの全力解放したレザレクション能力は、瀕死の男だけではなく辺りにまで拡散し、疲れていた人は元気になり、コスト削減のため少し傷んだ野菜で出来ていたサラダは一流料理店で出せるくらいシャキシャキで新鮮なものになっていた。
しかし、それに気がついた者は誰もいなかった。
それを傍で見ていた人達の中に、品の良い双子がいた。
「……兄さん、見た?」
「うん、領民のみんなはユカって人が凄いって言ってたけど、あのエリアさんも素晴らしいヒーラーだね」
「ええ、あれなら依頼できそうですわ」
金髪碧眼で品の良さそうな双子は、場末の冒険者ギルドには場違いなくらいどこに出しても恥ずかしくない素晴らしいテーブルマナーで食事をしていたが、エリアのヒール能力を目の前にし、とても感心していた。
そんな冒険者ギルドの空気を、一変させるような連中が押しかけてきた!
見た目からして品の無い、ならず者そのものといった連中だ。
こいつらに比べれば下品な冒険者なんて微笑ましいものだ。
「オイ! ここに大罪人がいるはずだ! 素直に引き渡せ!」
「オレたちゃヘクタール様の自警団だ! 逆らうと牢にぶち込むぞ!」
「ここにちゃんとヘクタール様の令状もあるんだょ! 逆らったら反逆罪だ!」
こいつらは典型的な権力を笠にした横暴な悪徳警官といったところだろうか、態度からしてまともではなかった。
「黙れ! ここはヘクタール領じゃねーぞ! さっさと帰れ!!」
「こんな瀕死にして痛めつけたのはテメエらか!? 許さねぇ!」
このままでは冒険者とヘクタールの私兵が一触即発である。
私がリーダーとしてこの場を収めないと……。
「やめてください! ここは中立の場所。争いは持ち込まないでください!」
「なんだと? このクソガキ!」
「ガキじゃありません! ボクには『ユカ・カーサ』という立派な名前があります!」
「生意気な小僧め! レジデンスの田舎貴族は家畜の躾もしらないのか!!」
「それよりよ、あそこの女、良くねぇか?」
「そうだな! アイツを連れて行けばヘクタール様はお喜びになるだろうな!」
こいつらは瀕死の重体を治癒していたエリアに目を付けて、強引に連れて行こうとした。
「何ですか!? あなた達は? やめて! やめてくださいっ!!」
……もう我慢の限界だ!
こいつらは徹底的にぶっ潰す!!