312 マクフライさんのフライ
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ヒロの口からマデンの名前が出てきた。
マデンとは魔将軍四天王の一人で、ミクニの国を乗っ取ろうと魔族のなりすました大臣だ。
ヒロはマデンと組んで奴隷貿易をしていた。
それは私達がミクニに行く前にカイリに依頼されて叩き潰してやった。
どうやらヒロはそのマデンと組んで、帝国とミクニの両方で商売を牛耳ろうとしていたらしい。
しかし魔将軍マデンは、ユカや私達がミクニの三人の王子達に協力して倒した。
ヒロはまだ海の向こうの話は聞いていないのか、マデンが倒されたことは知らないのだろう。
「何と言われましても正当性の無いものは申請できませんので、お引き取り下さい」
「だからミクニの支配者はマデン大臣であって、半死人の国王なんかの証文に意味はないでしょうって言ってるのよ!!」
「いいえ、今のミクニの国王様は三人おられるようですが。『ミクニ・リョウカイ』様『ミクニ・リョウクウ』様『ミクニ・リョウド』様の三人で、国璽も間違いなく押されております」
ヒロはこのことでようやく、マデンが倒されたかもしれない可能性を考えたようだ。
「バカな……マデンが、いないということなの。三人の子供達を争わせて国を乗っ取る計画がなぜ……三人とも生きている?」
普段冷静さを失わないはずのヒロが、頭を抱えていた。
「ウソだ……マデンがいる限り、アタシの商売は鉄板だったはず。それがなぜこうなる……」
ヒロは一つの結論に辿り着いたようだ。
「ユカ……アイツの仕業ね! ヘクタールといい、シャトーといい、マデンといい、マイルと組んで全部アタシの商売を潰してきてるのはアイツ……! 絶対に許さない」
ヒロはようやく諦めたのか、ギルド商工会議所のVIPルームを出てきたようだ。
「後悔しなさいよ。お前達全員、地獄に落としてやるからね!」
入り口近くに来たヒロは、私を睨みつけてきた。
どうやらユカと組んで悪徳商売の企みを潰していたのが、私だと気が付いたらしい。
「コレで勝ったと思わない事ね。この国はもうオシマイよ。せいぜい今のちっぽけな勝利を味わうのね」
「アンタがいくら人を苦しめようとしてもぉ、私が全部それを止めるよぉ!」
ヒロは床に唾を吐き捨てると、取り巻きを連れてギルド商工会議所を出ていった。
「さて、とりあえず下準備は出来たので、マクフライさんのとこに戻るかなぁ」
私が店に戻ると、長蛇の列は昨日をさらに上回っていた。
そしてマクフライさんは薄く切ったジャガイモやゴボウ等も油で揚げ、さらに蜂蜜で甘くした小麦粉と玉子の塊で揚げ物を作り、子供の喜ぶお菓子を作っていた。
流石はディスタンス商会の元一流料理人だ。
彼の作る揚げ物はお客さん達の胃袋をしっかりとつかみ、テンプラ、肉と野菜の揚げ物、揚げて作ったお菓子といったニーズで、老若男女全てに受け入れられていた。
「あ、マイル様。お帰りなさいませ」
「マクフライさん、大盛況みたいねぇ。もう商売の事で邪魔は入らないからねぇ」
「マイル様……ありがとうございます!」
「さぁ。お客さんが待ってるから早く作ってあげてねぇ」
「わかりました、精一杯料理させてもらいます」
マクフライさんの作った揚げ物は作っても作っても売れ続けた。
「そうだ、この料理に名前を付けてみてはどうかなぁ?」
「揚げ物……じゃないのですか」
料理に名前が付くと、その人が作ったと一発で分かるようになる。
私には頭の中に、この料理に相応しい名前がもう思いついてた。
「マクフライさんの作った揚げ物だから……フライってどうかなぁ?」
「フライ……ですか? 少し恥ずかしいですな」
「いいじゃない、フライ。エビならエビフライ、魚なら魚フライって付けるのよぉ」
そしてテンプラ以外の揚げ物の料理は、私のアイデアでフライと名前が付けられることになった。