311 早い者勝ちと正当性
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ミクニの国王は現在三人いる。
私は就任式の直後、三人の王に貿易の専売契約の証文を三人の連名で書いてもらった。
私達は魔将軍マデンを倒し、ミクニの内乱を食い止めた国の恩人だ。
三人とも私の頼みを快く引き受けてくれた。
この専売契約の証文にはミクニのショーユやミリンの作り方と酒造法、それに製造に必要なコージと呼ばれる特殊な粉の国外持ち出しの許可と、ミクニ産の野菜や魚介類の加工品等の専売許可が書かれている。
そして、私はいざという時のため、揚げるのはミクニの料理法だという口裏合わせの書類も作ってもらった。
本来はあの料理法はユカが考案したものだ。
しかし、ミクニの三人の国王の口裏合わせで、あの料理法はミクニに昔からある灯り用に使っている食べられる油を使った郷土料理だというものだという形にしてもらったのだ。
この契約書がある限り、他の誰かがマネをしようとしてもそれを横取りは出来ない。
ただし、これが商売でない場合は自由に使っていいという形で、私はギルドの商工会議所に特許申請を出したのだ。
「問題ありません、この料理法、ならびにミクニ国王との専売許可証の照合が完了しました。ギルド商工会議所はディスタンス商会の正当性をここに保証します」
「ありがとうねぇ。それじゃあよろしく」
私はギルド商工会議所の申請書類受付を済まし、入口に向かった。
すると、見たくない顔がぞろぞろと取り巻きを連れて現れた。
「ヒロ!」
「あら、何か獣臭いと思ったら、獣がいるじゃないの。ここはいつから獣の出入りが許されるようになったのかしら。場違いだからさっさと森の奥へ帰りなさいよ」
「相変わらずだねぇ。アンタ何しにここに来たのぉ?」
「フン、獣に話す言葉なんてありませんわよ」
ヒロは鼻で笑って奥のVIPルームに向かった。
アイツが何をしに来たのかはわかっている。
申請が終わったらすぐ帰るつもりだったけど、少し様子を見てやろう。
私は入り口近くの椅子に座って、奥の様子を耳を立てて聞いてみた。
「何ですって! 許可できない!?」
思った通りの流れになっている。
ヒロがここに現れたのは、揚げ物の料理法を特許申請して横取りするためだった。
「どういう事よ、特許は早い者勝ちじゃなくて申請者の正当性でしょうが。この料理法はアタシの料理人が考案したものなのよ。それを許可できないってどういうことよ!」
「それでしたら、その正当性をきちんとした証拠でお出しください」
ヒロが激昂しているらしい。
「アンタ、この街でアタシに逆らうつもりなの? アンタの仕事を奪って路頭に迷わせるなんて一日もかからないんだからね!!!」
「なんと言われましても、ギルド商工会議所は不正を認めませんので、もしこの料理方法が本当に貴女の料理人が考案したというならその証拠書類をお出しください」
そんなもの出せるわけがない、私はヒロの性格を知っているので横取りする前に先に手を打ったのだ。
「証拠証拠って、たかだか料理に何の証拠があるというのよ!?」
「この料理方法を申請したマイル・ディスタンス様はこれがミクニの昔からの郷土料理だと国王自らが証言した証拠書類を提出されております」
「あのクソ獣、そのためにここに来てたのね!! 国王って何よ、ミクニの一番偉いのはマデン大臣でしょうが。国王なんてもう死んだんじゃないの!」
ヒロはやはり魔族と組んでいるようだ。
大声で叫んでいるヒロの口からマデンの名前が飛び出した。
「何と言われても許可は出せませんので、お引き取りください」