310 勝利のマネジメント
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テンプラのいい匂いは辺りに漂った。
それはヒロのレストランで待っている長蛇の列の最後尾にまでとどいたようだ。
「なんだ? この匂いは」
「昨日の店でまた何か売ってるぞ」
「オレ昨日あの店で買えなかったんだよな」
長蛇の列の最後尾で順番待ちしていた人達は、私達の方に興味を持ったようだ。
「いらっしゃいいらっしゃい。ミクニ産の調味料で食べる珍しくて美味しいテンプラだよぉ」
私は大きな声でお客さんを呼び込んだ。
すると、昨日のお客さん達があっという間に列をなした。
「オレにテンプラを五本、いや八本くれ」
「俺は今日の昼これにするから、十本頼む」
「ウチは食べ盛りが多いからね、十五本……いや、二十本お願いね」
ミクニ産のショーユととミリンと削った魚のスープで作っただし汁は、テンプラにつけて食べる為に使い捨ての小さな器に入れた。
するとそれが飛ぶように売れた。
ここまで売れてきたら後は……マクフライさん夫婦に任せて、私は私の仕事をする事にしよう。
「マクフライさん、後は任せるねぇ」
「マイル様、わかりました!」
「男手が必要ならそこにでっかいのがいるでしょぉ」
カイリと船乗り達は役得とばかりにテンプラを食べていた。
「おう、安心しなー。喰った分はしっかりと仕事するからよー」
「任せたよぉ」
私は自由都市リバテアのギルド商工会議所に向かった。
◆
「オウ! 何勝手にまた店やっとんじゃ! ここはヒロ様の土地、ここの売り上げは全てヒロ様の物じゃい」
「ひっ、あ……あなたたちに従うつもりはありません!」
「なんじゃと! 痛い目見ないと気が済まんようじゃな。店ぶっつぶたるわ」
その時、チンピラの肩を後ろから掴んだのはカイリだった。
「いい加減にしとけよー……ド三流」
「何だと! てめぇ俺達に逆らうつもりか!!」
チンピラのパンチがカイリの顔面に直撃した。
「へっ。腰抜けが。パンチも避けられなかったのかよ」
「これがパンチだってー? オレは蠅でも止まったかと思ったぜー」
殴った側のチンピラが腫れ上がった手を見ていた。
「い……痛えよー! な、何なんだ。てめぇ、こんなヤツを雇ってるなんて卑怯だぞ」
「俺は金で雇われてここにいるんじゃねーよ。てめーらみたいな害虫を退治するためにここにいるんだよー!!」
カイリのパンチは一瞬でチンピラを全員海に叩き落とした。
「さて……綺麗にしますかねー。スキル潮流自在! 大渦よ、出ろぉー!」
海に出現した大渦はチンピラを全員凄いスピードでグルグルと回し出した。
「さて、そこで心が綺麗になるまで洗い流されてなー」
「た……助けてぇ! もう悪い事はしないから」
チンピラ連中はその後もしばらくの間大渦の上で回し続けられた。
◇
私はギルドの商工会議所で申請書類を提出した。
「マイル・ディスタンス様。ディスタンス商会会長……ですね。これは、料理の特許申請ということでよろしいでしょうか」
「そうです。この料理法はミクニ産の食材を使った料理法です。そのため、専売契約の証文もミクニの三人の国王自らの印とサインの入ったものがここにあります」
商工会議所の職員は私の出したミクニの専売契約書を確認していた。
普通の羊皮紙ではないミクニ産の高級用紙を使った証文を見た職員達はその紙を見て驚いていた。
「こ、これは間違いありません! ミクニ産の証文だと認めます。そして、この料理方法はマイル・ディスタンス氏が申請したものだというのは私達が証明しましょう。その際の特許申請の登録金はお持ちでしょうか?」
「ここにあるだけで足りるかしらぁ」
私は昨日の預かった売上と自身のポケットマネーを袋から取り出した。
「こ、こんなに必要ありませんよっ! これの十分の一で結構です」
「あら、そうだったのねぇ」
私は商売の申請と特許の申請、それにミクニとの専売契約を証明した事で、ヒロがどうやっても商売の邪魔をできないように手を打った。
「それと、港の周辺の波止場の土地を全て買うから。さっきの金があれば足りるかしらぁ」
「はい、あれだけあれば十分です。すぐ書類を用意します!」
これでもうヒロに邪魔はさせない!