309 テンプラ大作戦
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ポディション商会にやとわれたチンピラは、全員私のスキルでカイリの船まで吹っ飛ばした。
あの船にいるのは、大海獣レッドオクトの海域を乗り切って死線を潜り抜けた最強の船乗り達だ。
ヒロが雇ったゴブリンにも負ける程度のチンピラが相手になるわけがない。
「マイル様……ありがとうございます」
「いいってことよぉ。気にしないでってぇ」
マクフライさん夫婦は私の為に残っていた材料を使い、最後に残った脂で串揚げを作ってくれた。
「せめてこれをお持ちください。今日のお礼です」
「ありがとうねぇ。また明日来るよぉ」
私はマクフライさんの渡してくれた串揚げをおみやげに、ホテルに戻った。
その日の夕食は私の持って帰った串揚げを全員で食べた。
なぜかイオリさんだけは食べている途中で顔色が悪くなっていたけど、まあ特に問題はなかった。
◇
「さて、今日もやりますかぁ」
「マイル、おめー今日は何をするつもりなんだー?」
マクフライさんの店に向かうと、屋台はボロボロに壊されていた。
「酷い……ここまでするかねぇ」
誰が指示したのかは明白だ。しかし屋台を壊されたマクフライさん夫婦は朝から憔悴しきっていた。
「あ、これは……マイル様。今朝来て見たら……屋台がこんなになっていました」
「大丈夫、あーしに任せてぇ。ヒロ、絶対に許さないからねぇ」
私はスキルを使ってその場に大きな植物を一瞬で生やした。
その木を使い、カイリは船乗りの手下達を使ってすぐに頑丈な小屋を作り上げた。
「マイル、オレも一枚嚙ませてもらうぜー!」
「カイリ、ありがとう」
「オレもあのポディション商会って連中が気に入らないからなー。あっと言わせてやろうぜー!!」
カイリとその仲間が手伝ってくれるなら百人力だ。
私達は立て直した屋台で昨日と同じように串揚げを作るはずだった。
「ちょっと待ったぁ、今日は別の物を作るよぉ」
「マイル様? なぜですか?」
「あっちのほうを見てみなぁ」
ヒロの奪い取ったレストランでは、店頭で串揚げを作っていた。
しかも値段はこちらよりも安く設定している。
その上、採算度外視の高級食材を使っているのだ。
「まさか。あんな事をやられたら……資本で負けるわたしらが勝てるわけありません」
「またダンピングか……マジでクズだねぇ」
ダンピング。
それは客を馬鹿にしたやり方だ。
採算度外視で相手の店を潰す為に、不当に安く作った同じ商品を売る事で客を奪い取る。
そして客を奪い取って相手の店を潰した途端に、値段を倍以上に跳ね上げて元を取ろうとする。
ヒロはこのダンピングと焼き畑商法と相手の封じ込めで徹底的に逆らう者を潰してきた。
今回もこの揚げ物の商売を奪い取るのが目的なのだろう。
だがそんな程度で負けるほど私は弱くはない。
「こっちにはあの店に無いとっておきの物があるからねぇ」
そう言って私が用意させたのは小麦粉と干してガチガチになったミクニ産の魚の塊とショーユやミリンと玉子だった。
「マイル様? これは一体??」
「あーしに任せなぁ。これは絶対にヒロの店では作れないからねぇ」
私はマクフライさん夫婦に玉子と小麦粉と冷たい水を混ぜ合わせてトロっとした小麦の液体を作らせた。
その中に昨日用意しておいた新鮮な魚や肉、野菜を入れ、それを豚の脂の中でしっかりと揚げた。
「これはなんなのでしょうか?」
「これはテンプラだねぇ。ユカやミクニの人はそう言ってたねぇ」
そう、このテンプラをミクニ産のショーユとミリンと魚の削りスープを合わせた特製のつけ汁と一緒に出す作戦だ。