308 波止場までの長蛇の列
残っていた材料を全部使い切る形で、その場の串揚げは全部完売してしまった。
「マイル様、ありがとうございます。まさか全部の食材が無くなるとは」
「そうだねぇ。でもそうなると今度は食材を確保しないとねぇ」
「ですが、わたしどもにはポディション商会の圧力で、誰も怖がって食材を売ってくれないんです」
あのヒロのやりそうなやり方だ。
しかし私には心強い味方がいる。
「ちょっと待っててよぉ。その間にその木で串を作れるだけたくさん作っておいて」
「わ、わかりました」
私は売上金を袋に詰めるだけ詰めて、港に停泊中のカイリの船に向かった。
船の中にはミクニからの積み荷がたくさん積まれている。
「あ、姐さん。ご苦労様です」
「みんな、船底の積み荷で新鮮な野菜と肉を持って来てくれる? パンと玉子もあると助かるんだけどぉ」
「がってんでさぁ!」
私から串揚げの売上金の袋を受け取った副船長は、伝声管で船乗りに指示をした。
それを聞いた船乗り達は、船底から凍ったままの食材を持って来てくれた。
この食材は痛まないように魔法使いのルームが凍らせてくれているので、いつでも新鮮なまま使えるものだ。
「何人か手が空いてたら、来てくれると助かるんだけどぉ。給金ははずむよぉ」
「オレが行くぜ! 力ならまかせな」
「わいもいくでや、姐さん」
「みんな、ありがとうね……ところで、カイリは?」
カイリは私とは別行動をしている。
アイツは今ポディション商会と悪徳貴族のつながりを調べているようだ。
「いや、船長はまだここに戻って来てませんよ」
「わかったわぁ。それじゃあみんな、積み荷を持って来てねぇ」
私は船から材料を手に入れ、マクフライさんの屋台に戻ってきた。
「あ。マイルさん。困った事になりました。串揚げの噂を聞いた人達がもう無いのかと並んで待っているんです」
「お待たせぇ。これで作ってねぇ」
「マイル様、これは!」
マクフライさんは私の持ってきた食材を使い、先程よりもたくさんの種類の串揚げを作った。
魚や肉、野菜に丸いポテトサラダ。
種類の増えた串揚げを待つお客さん達は長蛇の列になり、その列は波止場まで続いた。
「姐さん、もう材料がありませんよ!」
「そうねぇ。流石に今日はここまでかなぁ」
「すみません、串揚げは材料が終わってしまいましたので今日はここまでになります」
並んでいた行列は残念そうに帰ってしまった。
「マイル様、本当に……本当にありがとうございます」
「いいってことよぉ。マクフライさん、苦労かけたわねぇ」
「マイル様、是非……商会を復活させてください。わたしたち全員マイル様をお待ちしているんです」
私達がそんな話をしている時、招かざる客が現れた。
「オウ、誰に断ってここで商売しとんじゃ!」
「ひっ、っこ……ここは自由都市リバテア。誰がどう商売しても良い場所だと皇帝陛下が決めた場所では?」
「そんなの関係ない、ここはポディション商会が買い取った土地だ。そこで商売をするなら売り上げの全部をこちらに寄こせ」
ヒロのヤツ、この長蛇の列を見た直後にこの土地の権利を奪い取ったらしい。
奴の典型的なやり方だ。
「それと……その料理の作り方、それは特許で我々が申請したのでお前達には禁止だ。どうしてもやりたければ特許料を払うんだな」
ここまでやるか。
ヒロの悪辣さは徹底している。
少しでも儲かりそうなことを他人がやるとすぐに横取りし、そのやり方を奪うのだ。
「待ちなよぉ。特許申請なんて、その日に出してすぐに通るわけないでしょうがぁ。言いがかりもいい加減にしなぁ」
「何だと! このアマァ。痛い目にあいたいのか!!」
こんなチンピラ、ゴブリン以下の強さだ。
そんな連中相手に本気を出したら、反対にこっちが慰謝料でなんだと言われる。
「丸太杭打ち」
私は先のとがっていない丸太をその場に押し出し、カイリの船の方に言いがかりをつけてきたチンピラ連中を吹っ飛ばした。