306 港町の料理人夫婦
港町リバテアに残ったマイル達の話です
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私は久々にリバテアに来た。
ここは以前とあまり変わっていない。
私はこの街で生まれ育った。
母様と父様はこの街を中心に大きく商売をしていた。
でも父様と母様がミクニに商売の為に船団を出した後、私の人生が大きく変わった。
船は魔の海域で赤い怪物『レッドオクト』によって沈められ、残っていた商会は番頭の二人によってポディション商会のヒロに売り飛ばされた。
そして私は、家族と住む場所と商売の全てを失った。
私に残ったのは、天啓で手に入れた植物を自在に操る能力だけだった。
この能力があったので私はどうにか賞金稼ぎをしてその日をしのぐ生活をしていた。
そんなある日、私は一人の男の子に出会った。
『ユカ・カーサ』
女の子にも見えるくらいの可愛らしい男の子だった。
でも彼はとても強かった。
彼は賞金稼ぎでそこそこ名の上がっていた私が、手も足も出ずに負けた相手だった。
その後私は彼の仲間になった。
ユカはその後も色々な場所で困った人を助け、彼のおかげで私は父様や母様の仇だったレッドオクトを倒す事も出来た。
その上天涯孤独になってしまったと思った私に兄と会わせてくれたのも彼だった。
そんな彼が今は何も覚えていなく、困っている。
私はユカを助けるために力を貸してあげたいと考えていた。
「アナタは……マイル様?」
「えぇ……? アンタ……」
「わたしらはマクフライ夫婦です。マイル様……お久しぶりです」
「あー、マクフライさん。元気だったぁ?」
マクフライさんはディスタンス商会のレストランで働いていたシェフの夫婦だ。
ディスタンス商会が倒産してしまい、こんな場所で商売をしているようだ。
「元気……とは言えないですね。商売がまるで成り立ちません」
「一体どうしたのぉ?」
「実は……ポディション商会に圧力をかけられた上、客を奪われてしまっているのです」
マクフライさんの屋台はボロボロだった。
その上食べ物は素材の良いとは言えない傷みかけで、野菜もしなびていた。
「客は全てポディション商会の連中に奪われ、わたしらはどうにかその日を生きている状態です……」
許せない。
私はなんとしてもマクフライさん夫婦を助けることにした。
「大丈夫! あーしに任せなさいっ」
「マイル様、ありがとうございます」
私はマクフライさんの屋台の今ある食材を見た。
固くて不味いパン、固すぎて歯で噛めないような痛んだクジラ肉、生では使えないいつのものかわからない玉子、萎びた野菜、脂身しかない豚肉。
どれも料理としてはまるで使い物にならない粗悪品だ。
でも私にはこの材料で作れる料理がわかった。
「あーしの言うとおりに作ってみてぇ。ミクニでの料理法だからねぇ」
私が作ろうとしているのは、揚げ物だった。
ユカが考えた料理法だ。
私はマクフライさんにまずは脂身ばかりの豚肉を細かく切って焼くように伝えた。
肉からは大量の脂がしみ出して、鍋いっぱいの脂が取れた。
そして奥さんには固くて噛めないようなパンを細かく砕くように伝えた。
細かく砕かれたパンは、荒い粉の様になって皿に山盛りになっていた。
「マイル様、これで本当に美味しいものが作れるのですか?」
「大丈夫だってぇ。あーしが保証するよぉ」
そして小麦粉やスパイスを茹でて柔らかくした鯨肉にまぶし、溶いた玉子を全体につけた。
その玉子にくぐらせたクジラ肉をパンを砕いた粉につけて、先ほどの脂で満たされた鍋に入れた。
「こんな料理法があったなんて!」
高温の脂からは、ジュウジュウといういい匂いがしていた。
そしてある程度になったところで私はこの揚げたクジラ肉を取り出すように伝えた。
細い棒で刺した鯨肉は、金色のようなきれいな色で、とても美味しそうだった。
「こ……これでいいのですか?」
「上出来だよぉ。食べてみようよ」
私達は出来上がった鯨の揚げ物にナイフを入れた。




