305 一人きりの勝利
キマイラは山羊の頭と翼を失った。
尻尾から燃え移った火は下半身から全身に燃え広がっている。
「ギャギャアアアオオオウ」「シャァァアー! シャゲェエエ!!」
ドラゴンの首とライオンの首はまだ残っている。
このモンスターは、三つの首のどれかでも残っていれば生きているらしい。
「ユカ様!」
「しっ、今は様子見じゃ。ユカ坊が一人だけであの妖を倒せるかどうかを見るいい機会じゃ」
みんなはまだ遠くの方にいるようだ。何か話しているようだったがボクには聞こえなかった。
「ギャアオオオウ」
ライオンの首が燃える身体を引っ張りながらボクに襲いかかってきた。
「あああうううわぁああ!!」
ボクは攻撃を避けきれずに、キマイラの噛みつきを食らってしまった。
しかし、ボクに痛みはなかった。
「え……どうなってるの?」
ボクを守ってくれたのは銀狼王のマントだった。
この装備は普通なら即死レベルのライオンの噛みつきを、完全に防御してくれた。
キマイラのライオンは噛みついたはずなのに嚙み切れない事で混乱していた。
「うわあああ!!」
ボクは持っていた剣を大きく振りかぶった。
この剣はキマイラの牙よりも硬く、当たったボクの一撃はキマイラの牙を斬り飛ばした。
「凄い……この剣なら」
キマイラはボクの出した岩盤に押しつぶされた事で、かなりの大ダメージを受けていて、攻撃を避けることが出来なかった。
ボクの剣は当たると凄いダメージだったらしい。
「ギャアアオオオゥ」
牙を失ったキマイラのライオンは悔しそうに咆えている。
ボクはその頭目指して攻撃をした。
ガギイイン!!
ダメだ、硬すぎる。
キマイラの骨はとても硬く、ボクの力だけでは斬れない。
力でも早さでも勝てない。
でも相手は岩盤に潰されてて動けない。
それなら、どこか木の上とかの高い場所から攻撃すれば。
ボクは辺りを見渡した。
確かにここは森だから木はある。
でもキマイラに飛び掛かって丁度ダメージを与えるような場所にボクの登れるような木は無かった。
それにいくらダメージを受けていて鈍くなっているとはいえ、木に登っている時に燃やされたらボクが無事でも木が燃えて使えなくなってしまう。
だからと他の仲間に頼ってしまうと、ボクが一人で強くなる事はもうできなくなってしまう。
ボクは今できることを考えた。
さっきの岩盤を落としたのがスキルで作った力なら、ボクはまだmpが使えるはず。
ボクは残ったmpを全て使い、自分の足元を高くすることにしてみた。
「ボクの足元の高さを高くしてくれ!!」
ボクの足元の地面は、森の中に出来た巨大な高い柱のようになった。
「ここからなら! だああああ!!」
ボクは高い柱になった足元から飛び下り、キマイラの頭に斬りかかった。
高い所から飛び下りた速さはとても早くなり、ボクは剣を両手で握りながら力を入れた。
「うおおおおおお!!」
グジャッッ!!
ボクは逆手に持った剣で、飛び降りた真下にいたキマイラのライオンの首を粉々に砕いた。
「やった!」
残った首はドラゴンの首だけだった。
ドラゴンの首は叫びながらボクに炎を吐いてきた。
でもその炎は、ボクの身に着けたレジストベルトのおかげで全くの無傷だ。
ボクはドラゴンの首の炎を浴び続けたまま、手に持った剣でドラゴンの首を斬り続けた。
手が痺れてくるほど、ボクはドラゴンの首を滅多切りにした。
何百回斬っただろうか。
ボクは他に何も考えずただひたすらドラゴンの首に剣を叩き続けた。
「シャアア……ァ」
ドラゴンの首は炎も吐けずにその場に力尽きた。
そして全ての首を失ったキマイラの胴体は、全身を包んだ炎に全て燃やされた。
「やった……ボクが一人で、キマイラを倒したんだ……」
ボクの勝利を見届けたホームさんやルームさん達が駆けつけてきた。
「ユカ様、やりましたわ! 貴方は一人でキマイラを倒したのですわ!」
「俺も見届けた。森の動物達がキマイラを倒してくれたことを感謝しているぞ」
ボクはみんなに褒めてもらった。
キマイラを倒して気の抜けたボクは、そのまま意識を失ってしまった。
「レベルが上がりました」