302 レベル1からのスタート
「貴女はエントラ様と仲がいいのですね」
「何故じゃ、なぜそんなことを言うんじゃ?」
「貴女の話し方を聞いていたらわかりますよ。大丈夫です、あの方がそう簡単にやられるわけがありません」
伯爵は動じる事もなく、余裕を見せていた。
「あの方は私の恩師です。今の私があるのもエントラ様のおかげだと言ってもいいでしょう」
「ふむ、ホンド坊にとってのワシみたいなもんじゃな」
アンさんは何か納得しているようだった。
「今ここにエリア様がいないのも、多分エントラ様と一緒に消えたということで見て間違いないでしょう。そうですね、私も何かご協力しますよ」
伯爵はそう言うと、何やらこの辺りの地図帳を取り出してきた。
「こういう話に詳しいのは古代からいる種族になるでしょう。フワフワ族の方々なら何かを知っているやもしれません」
「フワフワ族だって!?」
フロアさんが大きな声を出した。
「おや、フロアさんはフワフワ族をご存じなのですか?」
「俺達モッサール族とフワフワ族は似た種族の獣人だ。モッサールは森の民だが、フワフワ族は山の民だと言える。俺の祖母がフワフワ族だったと聞くが、詳しくは知らない」
どうやらフロアさんが言うように、フワフワ族は古代からいる獣人族のようだ。
「そうですか、ですが彼等はよそ者を嫌います。私も収穫祭の際に会うくらいで、普段はほぼ接点がありません」
「そのフワフワ族はどのあたりにいるんだ?」
「そうですね、ここから三日程深い山を越えた辺りに彼らの集落があると聞きます」
「どうやら次の目的地が決まったようじゃの」
ボク達はフワフワ族の人達に会うために伯爵の城から向かうことになった。
「こちらをお持ちください」
「これは?」
「収穫祭の際に彼らを呼ぶ時に使っている笛です。私達は普段接点のない彼等にこの笛で呼びかけているのです」
「お父様、ありがとうございます。こちらはしっかりとお預かり致しますわ」
伯爵がルームさんに笛を手渡した。
「ホーム。ルーム。二人共、立派に成長したね」
「お父様……」
「父上」
ホームさんとルームさんの二人は嬉しそうに伯爵の手を握っていた。
「ですが今はゆっくりと歓談している時間はありません。さあ早くフワフワ族の住む山へ向かうのです」
「お父様、わかりましたわ」
「はい、すぐに向かいます」
伯爵に挨拶をして応接の間を出たボク達は、中庭にいたシートとシーツを連れ、旅の準備を進めた。
「ふむ、ここから三日ならワシの背中に乗ればすぐにつくじゃろうて」
「アンさん……お願いがあるんです」
「ユカ坊、何じゃ?」
ボクは自分で考えていたことをみんなに伝えた。
「お願いです。この旅は普通に歩いて行かせてください」
「ユカ坊、それはどうしてじゃ?」
「ボク……考えたんです」
ボクは一人で考えたことをみんなに伝えた。
「皆さんはS級冒険者です。いや、下手すればそれ以上に強いかもしれません。でも今のボクはレベル1の素人です。こんなボクでも皆さんと旅がしたい、それなのでボクのレベルアップに付き合って欲しいんです」
ボクは言いたかったことをみんなに伝えた。
これで必要ないとか言われたら、諦めよう。
「素晴らしいですわ、もう一度ゼロから始めようというのですわね。いいですわ、ご協力致しますわ」
「食事の準備ならボクに任せて下さい、三日……いや、一週間分用意してきます」
「いい心がけじゃな、初心忘れるべからずじゃ。ワシも手伝ってやろう」
「俺も協力しよう。フワフワ族に会うのはすぐでなくても大丈夫だろう」
この人達は素晴らしい冒険者達だった。
こんな役立たずのボクを見捨てずに、ついてきてくれるのだ。
「ワオオーン!」
シートとシーツがボクに剣と毛皮のマントを渡してくれた。
「鎧は重くてもそのマントなら大丈夫だろう」
ボクが持った剣は、ずっしりと重かった。