301 伯爵の城へ
光る床に踏み込んだボク達が移動した先は、どこかの城の倉庫の中だった。
「ケホッケホッ……ここはいつもかび臭くて埃まみれですわ」
「まあ普段は使わない場所だからね」
どうやらここはホームさんやルームさんのお父さんの城のようだ。
「でもだからこそ内側から鍵を閉めればこのように私達だけが出入りできるのですわ」
そう言うとルームさんは内側から鍵を開けた。
鍵の外側は豪華な城の中庭だった。
「ワオーン!!」
大きな銀色の狼、シートが高く咆えた。
「この鳴き声は……ああ、シートちゃん、こんなに大きくなったのね」
「クゥーン、ハッハッハ……」
シートとシーツは大きな体でゆっくりと女性にすり寄った。
この大きな体で飛び掛かったら大けがをさせてしまうと思ったのだろう。
二匹ともとても賢い狼だ。
「ユカ様、ホーム様にルーム様も……お帰りなさいませ」
「アニスさんもお元気そうでよかったです」
どうやらこの女性はボク達の顔見知りのようだ。
多分二匹の狼の様子を見ると、この人が育ててくれたのかもしれない。
「シート、シーツ、アニスさんとしばらく一緒にいても良いよ」
「ハッハッハ」
「キャオン、キャオン!!」
二匹とも尻尾をちぎれそうなくらいに嬉しそうに振っている。
「どうやら二匹ともアニスさんに会えてとても嬉しいみたいだ。遊んで欲しいって言っているぞ」
フロアさんは動物使いなのでこの二匹の言っている事が理解できているようだ。
「そうなんですね、シートちゃん、シーツちゃん、こっちにおいで。美味しい物食べようね」
「ガオーン!」
銀狼シートがこの大きさで嬉しそうに大きく吼えた。
その衝撃でガラスが揺れ、木々が揺れていた。
「では父上に会いに行きましょう!」
ボク達はホームさんに連れられ、城の応接の間に向かった。
「おお皆様、お久しぶりです……そちらの女性は?」
「ワシはイ……アンじゃ。よろしく頼むぞ」
「イアンさんですか……その身なりからすると、ミクニの方とお見受け致しますが……」
「イアンではない。アンじゃ。」
名前を間違えられたアンさんが少し不機嫌になっていた。
「これは失礼致しました。私は『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス』伯爵です。さあ、こちらにはミクニ産のお茶もありますので、どうぞ」
ゴーティ伯爵様は深々とアンさんにお辞儀をしていた。
「ふむ、これは最上級の茶じゃな。まさかこんな異郷の地でコレを飲めるとは思わんかったぞ」
「お気に召しまして光栄で御座います」
伯爵様は子供みたいな見た目のアンさんに対してしっかりとした大人の対応をしていた。
「ふむ、しかしおぬしはなかなかのものじゃのう」
「と、おっしゃられますと?」
「ワシのこの見た目はどう見ても童じゃ。それなのにおぬしはワシを適当にあしらわず、真摯に向き合ってくれておる」
伯爵様は笑っていた。
「それは当然わかりますよ。ユカ様達と一緒にいるミクニのお客様。それがタダの子供のわけが無いのはもう想定済みです」
「ほう。おぬしはなかなか見る目があるようじゃな」
伯爵様はお茶を飲んでニッコリと微笑んだ。
しかしその後、真面目な表情をして伯爵様が話し出した。
「一体何がありました?」
「父上、どうしてそれを??」
「ユカ様の様子を見ればわかりますよ。以前と雰囲気がまるで違う」
伯爵様はボクを見ると、その後椅子から立ち上がった。
「何か困った事があるようですね」
「お父様、ユカ様は今までの記憶を魔物に奪われてしまったみたいなのです」
「どうやらそうみたいですね。それで、どうすれば良いかわからないので私の所に戻ってきたと……大魔女エントラ様には会えなかったのですか?」
「それがのう、えんとらは何処へかと消えてしまったのじゃ」
伯爵はその話を聞いて目を細めた。