300 Sクラスの称号
ギルドのお姉さん達はボク達に飲み物を持ってきてくれた。
「お! ギルドマスターのお帰りだぜ」
「ユカさん、今度はミクニに行ったんだって? すげーな」
「あの海の赤い怪物を倒したっていうぜ、流石はユカさん達だ」
いかにもベテラン冒険者といった人達が、ボクの事をすごいと言っている。
ボクの前にこの体を使っていた人は、一体どれだけすごい冒険者だったんだろうか。
「ユカさん、ギルド組合からのお知らせがあります」
「はい、何でしょうか?」
冒険者ギルドの受付のお姉さんがボクに何かの書類を持ってきた。
「ランクアップの話です。ユカ様達のパーティは今までも多くの人を助け、レベル40以上の怪物を次々と倒しました。これを称しまして、特例のSクラス冒険者認定証をお渡しいたします」
Sクラスだって!?
Aクラスですら普通の冒険者が数十年やってたどり着ける最高の称号なのに、ボク達はSクラスの冒険者の称号を手に入れてしまった。
「おめでとうございます!」
「すげーな! Sクラスってあのハンイバルさん以上だぜ」
「確か一度だけSクラスって存在したんじゃなかったっけ?」
「それってすでに伝説のバシラさんの時代のものじゃないのか?」
Sクラス冒険者認定証の話で、ギルドの酒場は大いに盛り上がっていた。
「ユ……ユカ様、お久しぶりです」
「え? あなた達は誰ですか?」
「いやだなぁ、おれ達は元ヘクタールの兵隊です」
坊主頭の数人組がボクに頭を下げてきた。
どうやらこの人達も前のボクの身体の人に何かをされたようだ。
「そうなんですね」
「はい、おれ達はあの後改心して、この街で魔軍からの避難民の人達のために働いています。まさか人に感謝されてする仕事がこんなに楽しいとは思いませんでした。ユカ様、ありがとうございます」
元ヘクタールの兵隊達は深々とボクに頭を下げてきた。
ボクの前の身体を使っていた人は、相当強かったようだ。
「ホーム……さん。ボク少し思ったことがあるんです」
「ユカ様? どうされましたか」
ボクは冒険者ギルドの使わせてもらっている部屋に戻り、みんなと相談をした。
「ゴメン、ボクどうやら前は凄い冒険者で強かったみたいなんだ。でも、今のボクは何もできない。ボクに期待してくれている人達にそんな姿を見せてガッカリさせたくないんだけど、こんなボクでもついてきてくれますか?」
「もちろんですわ! お師匠様仕込みのスパルタで、ユカ様を元のような強さに戻してみせますわ!」
「僕も協力する。ユカ様は僕達のリーダーだ」
みんなはニッコリと笑ってボクの事を受け入れてくれた。
前のボクの身体を使っていた人が、良い人だったのか知れない。
でもボクはボクだ。
前の人が強かったとしても、ボクが弱ければ意味がない。
せっかくみんなが、ボクのレベルアップのために力を貸してくれると言っている。
それならボクも頑張ろう!
「みんな、ありがとうございます」
「いいんじゃよ、ワシらはみんなユカ坊の事が好きじゃからのう」
「ああ、俺も何か協力できる事は協力する」
ボクは仲間達と握手をした。
ここにいる人たちはみんな、S級の強さだ。
足を引っ張らないように頑張ろう。
「さて、それではまず父上に話を聞いてみる事にしましょう」
「そうですわね。お父様にも久々に会いたしですし、すぐ行きましょう」
「でもその前にシートとシーツを連れてこないと」
「そうですわね、少し待っていてくださいませ」
ホームさんとルームさんはワープ床で移動し、双子の狼を連れて来た。
いくらこの部屋が特別で大きいと言っても、双子の狼はかなりのサイズだった。
「さて、これで全員揃いましたわ、それではお父様に会いに行きましょう!」
「うん、お願いします」
ボクはワープ床の移動に慣れたホームさんやルームさんの後に続いて、光る床に踏み込んだ。