298 まるでわからないことばかり
ボク達はその日の晩、晩餐会に招待された。
この土地はとても豊かで、食事もとても豪華だった。
中でも一番凄かったのが、貴族焼きと呼ばれる料理だった。
貴族焼きとは豚の体の中に穀物を入れ、藁を上に乗せて鉄板の上で焼いた料理だった。
コレが何故貴族焼きという名前なのかはわからないけど、いい匂いがして美味しそうな料理だった。
「コレはこれで豪快じゃのう」
アンさんが目をキラキラさせてよだれを垂らしていた。
「全く、はしたないですわ」
ルームさんとアンさんは何かあるたびに言い合ってるように見える。
「さあ、皆様どうぞ召し上がってください。この食事は皆様のおかげで日々食べていける感謝の印です」
執事らしき人が僕達に深く頭を下げてくれた。
でもボクにはやはり昼間の芝居の内容といい、今回の夜の食事会といい、なぜここまで特別扱いしてもらえるのかがわからなかった。
「皆さんはユカ様が悪徳貴族のヘクタール男爵を倒してくれた事で日々食べる物も無い生活から解放されたことを感謝しているのですよ」
ホームさんがボクにそう伝えてくれた。
ボクはわけも分からなかったが、一応うなずいておいた。
「さあ、冷めないうちにどうぞお召し上がりください」
貴族焼きが焼き上がり、美味しそうな匂いが辺りに漂っていた。
ボクは切り分けてもらった豚肉とスープのしみ込んだ穀物を皿に盛ってもらい、それを食べた。
じんわりとスープのしみ込んだ穀物はふっくらとしていて、とても美味しかった。
「これ、美味しいです」
「ユカ様が喜んでくれて嬉しいです。さあ、どうぞもっとお召し上がりください」
ボク達は貴族焼きや大鍋の芋煮、ヘクタール等をお腹いっぱい食べさせてもらった。
しかしヘクタールって名前は、元々ここにいた悪徳貴族の名前だったんだ。
どうして悪徳貴族の名前が料理の名前になったのだろう?
ボクは少しの疑問を抱いたが、食事を終わらせて部屋でゆっくり休んだ。
「お風呂の用意が出来ております」
建物の裏にはお風呂があった。
こんな所に天然のお風呂があるなんて。
しかもお風呂はかなり大きかった。
「こんな所にお風呂があるんですね」
「何を言われますか、これはユカ様が私達の為に作ってくれたお風呂ですよ」
やはりわけがわからない。
ボクが知らない間に、ボクの知らないボクの中の誰かが冒険をしていたのか?
あまりのわけのわからなさに、ボクはそんなありえない事を考えてしまった。
お風呂のお湯は温かく、ボクはゆっくりと体を休める事が出来た。
お風呂から出たボクは屋敷の部屋の鍵のかかった部屋を見つけてしまった。
「あの……ここには何があるんですか?」
「いえ、私どもには分かりかねます。ですが、部屋の鍵でしたらお渡しできますのでお待ちください」
ボクは執事さんに鍵を受け取った。
そして鍵のかかった部屋に入ると、そこにはいくつかの不思議な光る床があった。
「何なんだこれ?」
ボクは、恐る恐る床に足を踏み入れてみた。
すると、床は光り、ボクは光に包まれた。
「うわぁああ!!!」
……光がおさまり、ボクが辺りを見回すと、周りは先程とは全く違った場所だった。
「ここ……ドコなんだよ??」
ボクは不安になって先程の床にもう一度足を踏み入れてみた。
すると先程と同じようにボクは光に包まれ、光がおさまるとボクがいたのは先程の建物の部屋だった。
「何だったんだろう、さっきのは」
ボクは部屋から出ると、鍵を閉めて執事さんに返した。
そしてボクのために用意された部屋に戻り、朝までゆっくり休む事にした。
あの光る床の事は誰かが知っているかもしれないから明日聞いてみよう。
ボクはわけもわからず、誰に何を聞けばいいのかを整理しながら夜を過ごした。
色々考え込んでいると、知らない間にボクは眠りについていた。