297 とりあえず二手に分かれよう
ルームさんとアンさんは二人共こっぴどく怒られた。
説教は小一時間くらい続き、二人とも最後には涙目になっていた。
これが本当に世界最強クラスの魔法使いとドラゴンの姿なのだろうか……。
「ただーまぁ。コレおみやげだよぉー」
獣人の女商人さんと動物使いの男の人が帰ってきた。
「マイルさん? それは?」
「あー、コレはね、うちの商会の社員だった人が店をやってたからユカの教えてくれた料理法を伝えて作ってもらった串揚げだよぉー」
串揚げの本数がさらに増えた。
今度はクジラ肉だけではなくバリエーションが増えているようだ。
「ワ……ワシもういっぱいなのじゃ」
「遠慮しないで食べなよぉ。どうせタダでもらってきたもんだし」
「え? タダって??」
「まあタダというよりは、料理法を教えてあげたお礼ってとこだねぇ」
その日の夕食はみんなが山盛りの串揚げを食べる事になった。
アンさんは涙目になりながらどうにか食べていたが、その後トイレに行ってどうしたのかは知らない。
そして夕食の後、全員が部屋でぐっすり休んだ。
次の日、マイルさんがまた出かけるようだった。
「あーしは商会の立て直しでこの街に用事があるからね。しばらくはこの街にいる事にするよぉ」
「わかりました。僕達は一度ユカ様を連れてフランベルジュ領から戻って父上に会ってみます」
「オレも一旦この街に残るぜー」
「では俺はユカ達と一緒に行く事にしよう。何か記憶が戻る手掛かりがあるかもしれん」
そしてパーティーは一度二手に分かれる事になった。
マイルさんや海賊のカイリさんは港町に、それ以外の人達はフランベルジュ領に向かう事になった。
「さて、ワシも力を貸してやろうかのう。ユカ坊には返しきれん恩もあるでの」
そう言うとボク達はアンさんに連れられて町外れに辿り着いた。
「あの。イオリ様? こんな所で何をするつもりですか?」
「ワシはアンじゃって何度も言っておるだろうが。ところでおぬしら、歩いていくつもりだったのか?」
「そうですが、イオリ様……いったい?」
アンさんは空に舞い上がると大きく吼えた。
そして、紫色の巨大なドラゴンの姿に変化した。
「鈍いやつらじゃのう。歩いて行けば何日かかると思っておるんじゃ、ワシが乗せてやろうというのじゃ、感謝せい」
ボク達はドラゴンの姿になったアンさんに乗せてもらい、空に飛びあがった。
「うわっ! 高い!!」
「速さは少し抑えた方が良さそうじゃのう、まあ今日の昼過ぎには馬で三日くらいの場所には着けるわい」
「それではイオリ様、僕達をフランベルジュ領の街までお願いします。場所は僕がご案内します」
「だからワシはアンじゃと……おっと、今のワシは龍の姿じゃったな」
イオリ様と呼ばれるドラゴンはボク達を乗せて空を飛んだ。
その速さは馬車を遥かに上回り、ボク達はお昼にはフランベルジュ領の街に着いた。
「ふう、少し休むとするぞい。ワシも飛ぶと疲れるでのう」
イオリ様がアンさんの姿に戻っていた。
「ホーム様、よくお戻りになられました」
「みんなも元気そうだね」
「こ……こんにちは」
ボクはホームさんに続いて挨拶をした。
「ユカ様、お待ちしておりました。以前ご指摘のあった芝居を脚本や演出を直しましたので是非ともご覧ください」
「え……ええ? は、はい」
何故かボク達はこの街で話題の芝居を見る事になった。
芝居の演目は『救世主と死者の王』という話だった。
ボクが主人公の話だと聞いたが、そこに出てくる英雄は到底ボクにはできそうにない、凄い戦いを見せていた。
ボク達はこの街の名物料理『ヘクタール』を食べながら芝居を最後まで見物していた。
「ほう、コレは美味じゃのう。芝居を見ながら食べる何かを挟んだ餅のようなものか、コレは悪くない」
アンさんがヘクタールを食べながら感心している。
「ホーム様、ユカ様、本日は皆様のために夕食会を開かせていただきます」
ボク達は街の人達に夜の夕食会に招待してもらった。